▽思慮を尽くした交渉の合意は節減を生み成功−いや基礎をなす証拠合成法の確立はこれから

▽共和党スィープの選挙結果の直前、交渉責任者と産業界に理解ある研究者チームの所感だ


【出典】Meena Seshamani, I’m the director of the Center for Medicare. Here’s how we executed the first round of drug price negotiation、STAT(First Opinion), 2024年10月29日
T. Joseph Mattingly Ⅱ, Robust evidence synthesis to support transparent Medicare drug price negotiation, Health Affairs Forefront, 2024年10月10日




 大統領・連邦議会選挙を目前に控えた10月末、メディケア&メディケイドサービス庁(CMS)副長官M.セシャマニは「私は(最初の薬価交渉を終えた)メディケア局長」と明るいノリで語った。手頃な価格とアクセスの根本的改善を狙った政策は、「思慮を尽くし包括的、透明で明快に」、10製剤すべてについて製薬会社と「最もフェアな価格」(MFP)で合意、メディケアに60億ドル、患者に15億ドルの節減をもたらす成功を実現した──と報告した(表1)。



 しかし、T.J.マッティングリーⅡ(ユタ大学)らは、交渉の基礎になるCMS主導のプロセスの点検、それを支える健全な証拠の提示がプログラム評価の前提と主張。3月に約束される交渉経過の詳細が評価の始まりであり、成熟期に入る大型製剤のMFPを見極める方法論の確立・合意のために取り組む「広く利害関係者の参加を得た検証はこれからの話」と強調した(表2)。



 産業界の立場に理解の深いOHE(オフィス・オブ・ヘルスエコノミクス:ロンドン)のA.タウス、ワシントン大学薬学校のL.P.ガリソンが参加した、米国研究製薬工業協会(PhRMA)出資研究に基づく指摘である。


 ホワイトハウスと上下両院(と連邦最高裁判所)を共和党が完全制覇し、バイデン大統領の手柄は風前の灯火にみえる。だがアナリストの多くは「もちろん揺らぐが、大きな変化はないかも」と投資家に発信。選挙後もその見立てに修正はない。


 ワクチン懐疑論を掲げてドナルド・トランプの懐に食い込んだロバートF.ケネディ・ジュニアが厚生長官に指名された。製薬・食品産業の現状に対する不信を映す政策が模索されるなら、薬価交渉プログラムの扱いは後回しにされかねない。指名はワクチン主要メーカーの株価を下げた。


 11月末ロイターは、大手製薬会社の「友軍」である議会共和党へのプログラムを巻き戻すロビーイングが活発化し、政権移行チームにも直接働きかけていると報じた。ただ薬価交渉の廃止は難しく、市場に7年以上が交渉対象になるパートD(高齢者)製剤をパートB(外来)医師投薬製剤と同じ11年に延ばす修正(+オーファン適用基準見直し)に狙いを定めている、とした。


 これ以上ない政治環境を前に、自明のはずの活発なロビーイングがニュースになった。しかも確かな見直しの約束ではなく。


 市場分析会社S&Pグローバルは、新政権にとっては重要領域ではないヘルスケアだが、その気になれば議会とともに大きな変革は可能と分析した。薬価交渉条項が主要テーマの筆頭だが、阻害要因はケネディで、逆に価格交渉の拡充もあり得る、薬価抑制に超党派の支持がある──と産業界の意向が簡単に通る展開にはない状況を再確認させた。