▽米国のトランプ第2次政権のヘルスケア関連の指名高官はワクチン懐疑論者で占められた
▽多くの規範をひっくり返す「MAHA」を説く厚生長官ケネディはどこまで持論を進めるか
大統領に返り咲くドナルド・トランプの下でヘルスケア政策を担う幹部指名が終わった。政府高官として特異な言動をどこまで押し通すのか、現行法規や常道とどれだけ調整を強いられるか、規範を崩す改革か科学無視の暴挙か──。議会の指名承認を経て、健康・医療を舞台に異例の攻防が始まる。
立候補を取り下げ、トランプ支持に回ったロバートF.ケネディ・ジュニアが厚生長官に就く。政権補佐官でなく、摩擦をいとわず閣僚に充てたトランプは「思う存分やれ」と発破をかける。傘下の巨大機関メディケア&メディケイドサービス庁(CMS)、米国食品医薬品局(FDA)、米国立衛生研究所(NIH)のトップ指名に際しても「ケネディとともに」健康危機の克服に当たれ、と促した。
公衆衛生長官以外、新型コロナウイルス感染症(COVID−19)対策や政府の規制を声高に批判してきたお気に入りを揃えた。8年前のように気まぐれなボスを諫める「大人」はいない(表)。
環境保護に熱心なニューヨーク市の地域検事だったケネディがワクチン懐疑論に出会い傾倒し、名門政治一家の民主党エスタブリシュメントから離脱した。
富豪ナルシストの過激な米国第一主義が社会的な断絶の鬱屈を吸い上げた。MAGA(米国を再び偉大に)のトランプ現象が覇権と派遣の義務の放棄にあるとしたら、ワクチン懐疑論を前面に押し出し、子どもの慢性疾患の広がりを加工食品・製薬産業界批判と結びつけるケネディのMAHA(再び健康に)は、医療システムの狭間に落ち込んだ市民、規制と義務が支配したパンデミック対策に対する保守派の不満と共鳴して勢いを得た異端だ(世界最大の死者数を数え、トランプ政権の対応に責任があったにもかかわらず)。
超党派の支持を得て予算を増強し、医学研究の基盤拡充が続いていたNIHもパンデミック対応(アンソニー・ファウチ批判)を機に保守派の標的になった。大幅縮小論がある。