元FDA長官ゴットリーブの批判


 8年前、反ワクチン運動は土壇場で排除された。指名承認の証言で、厚生長官トム・プライス、前FDA長官スコット・ゴットリーブはワクチン懐疑論を明快に退けた。そのゴットリーブが公然とケネディを批判した。上院共和党穏健派と指名承認拒否の可能性を探っているとニュース専門チャンネル「CNBC」でコメントした。


 現FDA長官ロバート・カリフが選挙結果とケネディの指名を知って「がっかり」し、「せめてしっかりしたFDA長官を」と名前を挙げられたのがゴットリーブである。


 ケネディ側近は、FDAから米ファイザー理事に横滑りし、政府機関の信頼性を失わせた人物による「新政権の改革命題を損なう発言だ」とすかさず反論した。新設される政府効率化省のビベク・ラマスワミーは「そうした腐敗を終わらせるのが責務」と強調、共和党本流・エスタブリシュメントとの違いを示した。


 ラマスワミーは、トランプ応援団長イーロン・マスクとツー・トップで合理化と歳出削減を担う。FDAの規制緩和、人員合理化も標的だ。


 製薬、加工食品産業批判に加えて、ケネディはメディケア医師報酬の骨格(CPT)に関わる米国医師会権限に挑む考えも語る。「本流」にくってかかる姿勢が政権の「らしさ」なのか、産業界フレドリーな共和党とどう折り合うのか。厚生長官指名後、ピル、緊急避妊薬が買われ、ファイザー、米メルクなどワクチンメーカーの株価は落ちた。


 ワクチン懐疑論には接種を受けない選択を認める妥協策があるが、免責と賠償に手をつければ大混乱は必至。米国疾病予防管理センター(CDC)予防接種委員会によるRSVワクチン推奨の遅れに保守派の影響を観測する向きもある。


 ケネディは消費者直接広告の制限を見据えるとの観測もあるが、「自由な発言」の権利侵害が問われる。


 FDA予算を支えるユーザー・フィーを無視した産業界との関係批判、人員削減は机上の空論だ。


 直接の政策責任者も上院承認が必要な政治指名、行動を左右する言質をとられる。ケネディの意向が傘下組織にどう反映されるか。FDA長官指名のマーティ—・マカリーもCOVID−19ワクチン懐疑派だが外科医、合理的アプローチを見込める。しかしCDC所長に指名されたデイブ・ウェルドンは同じ医師だが根深い反ワクチンの元下院議員だ。


 幹部間の足の引っ張り合いの第1次政権だった。新しいトランプ忠誠を誓う布陣を敷いたが、皮肉にも移民系が多いリーダーシップ間の関係、意見調整はまた別の話になる。トランプは大統領選挙の最中、ヘルスケア改革に言及しなかった。移民・減税・貿易関税・政府改革を優先するが、対中国と抗がん剤などバイオテック提携やバルク価格、メディケア薬価交渉批判と10年1,000億ドルの歳出削減(減税財源の重み)といったヘルスケア領域も政治の大枠に影響される。


○CMS長官候補はMA推奨

 公的保険制度と支払い改革を担うCMS長官にはメハメット・オズが指名された。「ドクター・オズ」として人気のTVスターに定見はない。ワクチン推奨の過去もあるカメレオン。2022年の上院議員選挙への出馬(落選)を契機にトランプ派になびいた。


 メディケア・アドバンテージ(MA)フォー・オール、民間保険による一本化の提唱に加わった(医療の構造158)。保険業界にとってリスク調整定額拠出の支払い抑制(減額)に舵を切った民主党政権が終るので、MAファンの登場は好ましい。


 バイデン政権は11月末、2026年MA契約の方針に、①過度な事前承認制を抑える運用環境、②診療ネットワークの正確なリストと医師・病院情報、③保険料と給付費の比率「医療損失率」算定の適正化、④保険と診療の垂直統合の点検、⑤誇大広告の制限、⑥法規を順守したAI利用──を盛り込んだ。総じてMA運営のブラックボックスに踏み込むことを意味するが、減量薬のメディケア給付適用とともに最終規則化は新政権に委ねた。


 民間保険中心のメディケア再編は共和党の政策だが、政権移行チームに影響力を持つパラゴン・ヘルス研究所は的を絞った見直しが却ってMAプログラムを強化すると説く。「メディケアは削減しない」がトランプ唯一の公約だが、受給者の過半数をカバーするMAプランの支払い緩和はメディケア財政の圧迫、連邦費用の増大に直結する。