■エーザイ:がん領域で1回、CNS領域で2回受賞
レンバチニブ(レンビマ、20年度受賞)は、新規の血管新生阻害剤。薬剤耐性化がんに対抗する最善の創薬コンセプトは血管新生阻害と考えていた同社の創薬研究チームは、安全に長期間経口投与でき、大幅な生存期間延長を目指す「レンバチニブ・プロジェクト」を2000年に開始した。
【複数の血管新生因子に着目】レンバチニブは血管内皮増殖因子受容体(VEGFR1/2/3)、線維芽細胞増殖因子受容体(FGFR1/2/3/4)に加え、腫瘍血管新生あるいは腫瘍悪性化に関与する他の受容体型チロシンキナーゼ(PDGFR、KIT、RET)への選択的阻害活性を有するマルチキナーゼ阻害剤だ。
血管新生の過程はVEGFをはじめ複数の血管新生因子によって調節されているが、VEGF阻害剤に対する耐性化を視野に入れ、FGFや肝細胞増殖因子(HGF)など他の血管新生因子にも着目した。
【独自の評価系を構築】シード化合物の探索にあたって、in vitroでは血管内皮細胞に特異的な「管腔形成」が評価可能な血管新生モデル、in vivoでは、がん細胞が誘導する血管新生を定量的に評価できる動物モデルによるアッセイを構築。VEGFとFGF誘導管腔形成を阻害するシード化合物を見出した。
【承認から10年弱で医薬品事業の基幹に】効能・効果は、15年の承認時「根治切除不能な甲状腺癌」のみだったが、18年に肝細胞癌、21年に胸腺癌と子宮体癌、22年に腎細胞癌へと適応疾患を拡大(詳細は添付文書等を参照のこと)。23年度には世界で2,930億円を売り上げた。
24年5月の決算説明会で同社は、受賞したレンバチニブ(LENVIMA)と不眠症治療薬Lemborexant(デエビゴ)に、抗認知症薬レカネマブ(LEQEMBI)を加えた「3Lの成長」が、「24年度の医薬品事業売上収益7,245億円達成の要諦」としている。
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レンボレキサント(デエビゴ、’24年度受賞)は、オレキシン受容体の2つのサブタイプ(OX1R、OX2R)に対して、オレキシンと競合的に拮抗するデュアルオレキシン受容体拮抗薬(DORA)。
受賞理由は、合理的判断による標的設定(不眠症の主原因が覚醒経路の夜間過剰活性化であることを踏まえ、従来薬とは異なり、覚醒系の抑制に狙いを定めた点)と独創的な化合物構造(3置換シクロプロパンを基本とするユニークな構造)、また、バランスの取れたプロファイルへの最適化によって、前臨床から臨床試験において、従来薬とは一線を画す薬効および安全性プロファイルを示したことが挙げられている。
20年に国内で承認された効能・効果は「不眠症」だが、19年に承認を受けた米国の適応は「入眠困難、睡眠維持困難のいずれかまたはその両方を伴う不眠症」(日米とも成人)。また、国内新発売時のプレスリリースでは、原発性のみならず、うつ病などに併発する不眠症への有効性が示唆されている(SUNRISE2試験)ほか、軽度・中等度アルツハイマー型認知症に伴う不規則睡眠覚醒リズム障害(ISWRD)を対象とした臨床第Ⅱ相試験が進行中としている。
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ペランパネル(フィコンパ、21年度受賞)は、グルタミン酸受容体のうちAMPA受容体を選択的かつ非競合的に抑制するファースト・イン・クラスの抗てんかん薬。効能・効果は「てんかん患者の部分発作(二次性全般化発作を含む)」および「他の抗てんかん薬で十分な効果が認められないてんかん患者の強直間代発作に対する抗てんかん薬との併用療法」。
AMPA(α-アミノ-3-ヒドロキシ-5-メソオキサゾール-4-プロピオン酸、アンパ)受容体は、脳のシナプスで神経伝達を担うタンパク質。速い興奮性神経伝達に関与し、シナプスでの発現数が神経活動の同期性に大きく関わる。
神経興奮を担うグルタミン酸受容体は、80年代から重要な創薬標的として認識されてきたものの、医薬品の創製に至らなかった。特に、AMPA型受容体はNMDA(N-メチル-D-アスパラギン酸)型受容体とともに中枢神経系で主要な機能を担うイオンチャネル型受容体で、主作用の延長と考えられる副作用との乖離が非常に難しかったからだ。
しかし、研究者らはハイスループットスクリーニングより得られたリード化合物を構造最適化することで、経口吸収性、脳移行性、薬物動態、サブタイプ選択性等を改善し、グルタミン酸受容体を直接ターゲットとする世界初の薬剤の創製・開発に成功し、世界70ヵ国で使われるに至った(21年6月の総説掲載時点)。
■小野薬品/京都大学:がん治療を変えたオプジーボ
ニボルマブ(オプジーボ、16年度受賞)は、14年に世界初の抗PD-1抗体として日本で承認されたヒト型モノクローナルIgG4抗体である。がん細胞による腫瘍免疫の回避には、「PD-1(programmed cell death-1)/PD-L1(programmed cell death-ligand 1)経路」が重要な役割を果たしている。同剤は、PD-1をブロックすることで身体の腫瘍免疫を活性化し、抗腫瘍効果を示す免疫チェックポイント阻害薬。
【PD-1の発見・機能解明と創薬】PD-1は、T細胞の細胞死誘導時に発現が増強される遺伝子として、京都大学医学部 本庶佑教授の研究室メンバーであった石田靖雅氏が単離・同定、命名し、92年にEMBO Journal(欧州分子生物学機構の公式誌)に報告した。その機能は長らく不明だったが、同研究室が98年に作製したPD-1欠損マウスを用いた検討で、生体内において免疫反応を負に制御していることが明らかになった。02年にはPD-1/PD-L1シグナルが自己免疫や腫瘍免疫等に広く関与する可能性が示唆され、小野薬品においても医薬への応用を目指してPD-1研究を開始した。
【ヒト型抗体作製技術を持つ米国企業とタッグ】とはいえ、当時の小野薬品にこうした新薬を創る技術・設備はなく、十数社に掛け合った後に05年、腫瘍免疫の知見を持つ米国のベンチャー企業Medarex社(現ブリストル マイヤーズ スクイブ、BMS)と共同研究を開始した。ニボルマブの親抗体はもともとIgG1サブクラスだったが、結合したT細胞を傷害しないよう、抗体依存性細胞傷害作用(ADCC)や補体依存性細胞傷害作用(CDC)のないIgG4に置換した上、H鎖の一部アミノ酸置換により構造を安定化した。
がん免疫療法については、80~90年代に試みがなされたものの、00年初頭にも十分なエビデンスを得られていなかったため、治験の開始も困難を極めたが、08年に国内治験を開始。14年7月に「根治切除不能な悪性黒色腫」の効能・効果で、世界に先駆けて国内承認を得た。
【第4のがん標準治療に】その後、ニボルマブ単剤で15年にNSCLC、16年腎細胞癌と古典的ホジキンリンパ腫、17年頭頸部癌と胃癌、18年悪性胸膜中皮腫、20年結腸・直腸癌と食道癌、21年食道癌と原発不明癌、23年悪性中皮腫、24年上皮系皮膚悪性腫瘍と、年々適応疾患を拡大。さらにイピリムマブ〔ヤーボイ、ヒト型抗CTLA-4(細胞殺傷性Tリンパ球抗原4)モノクローナル抗体、製造販売:BMS、プロモ提携:小野〕や、化学療法、分子標的薬との併用での適応も拡大しつつある(詳細は添付文書等を参照のこと)。
ニボルマブは「WHO必須医薬品モデルリスト2023年版」にも掲載されている。従来、がんの標準治療法は外科療法・化学療法・放射線治療法だったが、ニボルマブは第4の選択肢としてがん免疫療法が加わる契機となった。23年度売上収益は1,455億円で「グローバルスペシャリティファーマ」を謳う同社のトップ製品となっている。