■注目の非オーファン薬は
24年に承認されたNMEs50品目の内訳は、オーファン薬(Orphan Drug)指定26品目に対し、非オーファン薬が24品目だった。
非オーファン薬では、First-in-class(FIC)かつBreakthrough Therapy(BT)指定を受けたものが3品目、FICのみが4品目、BTのみが2品目だった〈表2〉。FDAが総括レポートで「注目のFIC」として挙げた非オーファン薬は、以下に紹介する6品目である(順不同、光学イメージング剤1品目を含む)。
※記載は【一般名/販売名、企業(本社が米国以外の場合はその国)】の順。
【ノガペンデキン アルファ インバキセプト/Anktiva、ImmunityBio、Altor】同剤は、BCGの膀胱内注入療法に反応しない筋層非浸潤性膀胱がんの治療薬。❶インターロイキン-15(IL-15)受容体作動薬であるノガペンデキン アルファ(ヒトIL-15変異体)と❷インバキセプト(融合タンパク)から成る可溶性の複合体で、BCGとともにカテーテルで膀胱内注入する。
IL-15は、細胞の殺傷に関与する主要な免疫細胞の発達・維持・機能に影響を及ぼすことで、免疫系において重要な役割を果たす。ノガペンデキン アルファ インバキセプトは、NK細胞、CD4+ヘルパーT細胞およびCD8+キラーT 細胞上のIL-15 受容体に高い親和性で結合。樹状細胞の自然な生物学的特性を模倣し、がん細胞を認識するよう訓練されたメモリーT細胞を生成し、これらの殺傷細胞の活性化と増殖を促して、持続的な完全応答をもたらす。
開発したImmunityBioは、リンパ組織内での持続時間の長さと、抗腫瘍活性の強さを強調し同剤を “superagonist complex”と呼んでいる。また、体内のNK細胞、キラーT細胞、メモリーT細胞を同時に活性化し、長期記憶を伴う強力な免疫反応を作り出して腫瘍細胞を攻撃することを“triangle offence”と称している。
【キサノメリン+トロスピウム/Cobenfy、BMS/Karuna】同剤は、❶キサノメリンと❷トロスピウム塩化物を配合した、成人の統合失調症に対する初のムスカリン作動薬だ。❶はM1/M4ムスカリン性アセチルコリン受容体(mAChR)二重作動薬で、中枢神経系(CNS)に移行。❷は血液脳関門をほとんど通過せず、主に末梢組織のムスカリン受容体に拮抗作用を示す。詳細な作用機序は不明だが有効性は❶によるものと考えられている。ドパミンD2受容体やセロトニン5-HT2A受容体を直接の標的としない抗精神病薬の登場は数十年ぶり。
適応疾患は成人の統合失調症。1日2回経口投与。
❶は1990年代にEli Lillyが開発。アルツハイマー病の行動・心理症状の治療薬として臨床試験を進めたが、コリン作動性の重い副作用により第2相で開発を中止。しかし、蓄積データから抗精神病作用がある可能性も示唆されていたことから、2012年にライセンス供与されたKaruna Therapeuticsが、キサノメリンの腸内での作用を弱めるため、❷を併用し“KarXT”と名付けて臨床開発。
BMSは23年末にKarXT の取り込みに向け、Karunaを約2.2兆円で買収。24年9月にFDAからCobenfyの承認を得た。
【アプロシテンタン/Tryvio、Idorsia(本社スイス)】同剤は、成人の治療抵抗性高血圧に対する、初のエンドセリン受容体拮抗薬(ERA)だ。臨床試験では、最低3種類の薬剤を最適⽤量で服⽤している患者、場合によっては最大4~6 種類の降圧剤を服⽤しても⾼⾎圧が続く患者を対象に検討した。
エンドセリン(ET)-1は受容体(ETA および ETB)を介して、血管収縮、線維症、細胞増殖、炎症などのさまざまな有害な影響を及ぼす。高血圧では内皮機能障害、血管肥大およびリモデリング、交感神経活性化、およびアルドステロン合成の増加を引き起こす可能性がある。アプロシテンタンは、ETAおよびETB受容体へのET-1の結合を阻害する。
1日1回経口投与(他の降圧薬と併用)。
【レスメチロム/Rezdiffra、Madrigal】同剤は、中等度から進行した肝線維症(ステージF2~F3相当)を伴う、成人の非肝硬変性⾮アルコール性脂肪肝炎(NASH)〔別名:代謝機能障害関連脂肪肝炎(MASH)〕※に対する初の治療薬だ、
Madrigal社によると、米国では約 150 万⼈の患者が NASH と診断されており、うち約 525,000 ⼈が「F2~F3相当の肝線維症を伴う NASH」と推定される。こうした状態では肝臓の予後不良のリスクが劇的に増加し、肝移植の主な原因ともなり得る。同剤の対象としては、肝臓専門医の診察を受け、この診断を受けた約 315,000 ⼈の患者を想定しており、「患者が肝硬変に進⾏する前に線維症を改善しNASHを解決する治療法を医師に提供したい」という。
レスメチロムは甲状腺ホルモン受容体ベータ(THR-β)の部分作動薬。食事療法・運動療法を実施しつつ、1日1回経口投与。限られた専門薬局ネットワークを通じて配布される。
THRにはαとβの2つのサブタイプがある。甲状腺ホルモン(TH)は、心臓や骨を含む肝臓外では主にTHR-αを介して作用する。一方で、肝細胞に多く発現するTHR-βを介した作用として、肝臓におけるコレステロール代謝の活性化、肝内トリグリセリドや血中脂質濃度の減少が知られている。したがって、THR-βに選択的に結合するTHアナログは、NASH、脂質異常症、肥満等に対する治療薬となる可能性があると期待されてきたが、これまでは実用化に結び付いていなかった。
※NASH:Non-Alcoholic Steatohepatitis
MASH:Metabolic Dysfunction-Associated Steatohepatitis
【ネモリズマブ/Nemluvio、Galderma(スイス)】ネモリズマブは、中外製薬創製のヒト化抗ヒトIL-31受容体A(IL-31RA)モノクローナル抗体。IL-31と競合的にIL-31RAに結合することにより、IL-31の受容体への結合と、それに続く細胞内へのシグナル伝達を阻害し、そう痒を抑制する。
中外製薬は、16年7月に日本と台湾を除く全世界における開発・販売の独占的実施権をGaldermaに、同年9月には、国内の皮膚科疾患領域における開発・販売の実施権をマルホに許諾。日本では22年3月、マルホが「ミチーガ皮下注用60mgシリンジ」について、成人および13歳以上の小児に対する「アトピー性皮膚炎に伴うそう痒(既存治療で効果不十分な場合に限る)」を効能・効果として、世界に先駆けて製造販売承認を取得。さらに、「ミチーガ皮下注用30 mgバイアル」について、6歳以上13歳未満の小児に対する「既存治療で効果不十分なアトピー性皮膚炎に伴うそう痒注)」、成人および13歳以上の小児に対する「既存治療で効果不十分な結節性痒疹」を効能・効果として、24年3月に製造販売承認を取得した。
24年に米国で承認を受けた適応疾患は結節性痒疹。強いそう痒を伴う皮疹を有する慢性疾患で、発生機序の詳細は不明だが、病変部では表皮肥厚やコラーゲンの過剰産生が認められる。IL-31は表皮細胞の増殖や、線維芽細胞からのコラーゲン産生を誘導することから、そう痒や皮膚病変にも関与していると考えられる。
米国では、使用が適切かどうか皮膚科医に判断してもらい、同剤による治療の前に現在の予防接種ガイドラインで推奨されている年齢に応じたすべての予防接種を完了した上で、月1回皮下注射する。