■小さな企業が画期的オーファン薬の創製を目指す
【ウルトラオーファン薬の課題にも言及】川田直紀氏(JCRファーマ株式会社 経営戦略部 部長)は、『超希少疾患のアンメットニーズに応える治療薬の開発』について講演。75年設立の同社は、社員数948名(24年末、単体)。芦屋市に本社のほか、北南米や欧州にも関連会社を持ち、常に他社より“一歩前に出る”独自の技術開発と新薬創製に挑戦している。輸入販売ではなく革新的な創薬にこだわる理由は、経営者に言わせると「そんなの面白いからやん」。組換えタンパク製造技術を用いたソマトロピン(販売名グロウジェクト、16年承認)は現在でも経営の基盤となっている。また、2000年代には細胞培養および糖鎖コントロール技術を活かしてバイオ後続品を製造。10年以降は、「血液脳関門(BBB)通過技術 J-Brain Cargo」を適用した治療薬の開発に取り組み、世界初のBBB通過型酵素製剤・パビナフスプ アルファ(販売名イズカーゴ、21年承認)を上市した。この技術を用いてライソゾーム病領域の15を超える疾患に対する治療薬開発を行っているほか、今後は同技術とアデノ随伴ウイルスベクター(AAV)を組み合わせた新規遺伝子治療の開発も視野に入れている。
川田氏は、架空のケーススタディとして「日本国内で患者が10~50名程度の超希少疾患/患者背景は多様/自然経過に関するリアルワールドのデータやエビデンスなし」という例で「ウルトラオーファン薬の開発をどうすべきか」を会場に投げかけ、日本未承認かつ国内外とも開発がなされていない「もう一つのドラッグ・ロス」があることを訴えた。
数百人規模の会社が、アルツハイマー病のようなコモン・ディジーズの治療薬を開発することは難しい。一方、希少疾患の場合、薬価の予見性等の課題はあるものの、ストーリー(病態や発症機序など)がわかれば取り組みやすい。治療法や新生児スクリーニング法などが確立されていない、国内患者数が数十名程度の超希少疾患に対する医薬品開発戦略としては、「条件付き早期承認制度の活用」や「製造販売後調査等による、安全性・有効性のエビデンス補強」などが想定される。超希少疾患は早期診断が難しいため、治験実施段階では多くの患者で症状が進行している状況が想定されるが、承認後はマススクリーニングの確立を含めた早期診断・早期治療が可能になると考えられる。川田氏は「超希少疾患の医薬品開発は、治療法のない患者に治療の選択肢を提供するだけでなく、新興企業にとっても早期承認・早期収益化への道を拓くのではないか」「ある国・地域での患者集積が認められるなどの知見があれば、グローバル展開での開発が可能かもしれない」などの見解を示した。
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AMEDの医療研究開発革新基盤創成事業(CiCLE)の一環として、三菱総合研究所(三菱総研)が行った『ウルトラオーファンドラッグの開発動向調査』(20年2月)等では、オーファン薬のうち「対象疾患の患者数が特に少なく、国内患者数1,000人未満程度未満(有病率1/100,000以下程度)のもの」をウルトラオーファン薬としている。同報告書では、国内外の文献・ガイドライン・学会発表・該当品目の調査やインタビューを行い、今後AMEDが行うべきアクションとして、❶研究プラットフォーム構築に向けた検討、❷患者団体機能の強化に向けた実施計画の策定、❸ウルトラオーファン向け研究者のレジストリ開発と企業マッチング支援、❹国際的な協力関係の構築、❺開発成果の共有を挙げている。
また、三菱総研ヘルスケア・ウェルネス事業本部の川上明彦氏は、『ウルトラオーファンドラッグの薬価算定の実態および薬価を予見する因子の研究』(23年2月)で、「ウルトラオーファン薬開発には薬価や採算性の問題がある(原価積み上げ方式による積み上げでは採算性確保が難しく、事業が成り立たない)」一方で、著しく高薬価とされた場合は「処方された患者が所属する健康保険組合等保険者の財政を圧迫する」ほか、「1品目の患者数が少なくても品目数が増えた場合は医療財政への影響も大きくなることが予想される」としている。
※【RDD2025】産患学官民で迫る希少疾患とドラッグ・ロス〔後編〕に続く
2025年3月5日現在の情報に基づき作成
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本島玲子(もとじまれいこ)
「自分の常識は他人の非常識(かもしれない)」を肝に銘じ、ムズカシイ専門分野の内容を整理して伝えることを旨とする。
医学・医療ライター、編集者。薬剤師、管理栄養士、臨床検査技師。