ターゲットは国内準大手・中堅


 住友化学は取り組むべき社会課題を「食糧」「ICT」「ヘルスケア」「環境」に整理し、昨年10月に組織を先の4部門に改めた。ヘルスケアに当たる先端医療部門は、「高い合成力」「幹細胞・分化誘導技術」「開発、生産、薬事といった総合対応力」(岩田社長)を踏まえ、提供すべきはCDMOと再生・細胞医療の2つと結論づけた。24年4月の経営説明会で岩田社長が「あらゆる選択肢がある。(連結除外も)十分にあり得る」と言い切った時と同様、今回も住友ファーマは住友化学グループのヘルスケア領域の重点対象から外された。


 背景にあるのは、化学事業をもっぱらとする住友化学ではモダリティ(治療手段)が多様化する一方の創薬シーズの目利きが難しく、開発力が不足しているからにほかならない。業績悪化の一要因とした「多角化による経営資源の分散」も影を落とす。三菱ケミカルグループが田辺三菱製薬の切り離しを決断したのと同じく、低環境負荷型化学品を供給する「スペシャリティケミカル企業」への転換を住友化学も志向するなかで化学事業への投資負担が今後、大きくなる。そのため、本業とは言いがたい製薬への投資は、住友化学傘下にいる限り、後回しにされてしまう。故に、住友ファーマの再成長を託せる“ベストパートナー”が別に必要というのが考えなのだ。


 では住友化学が見据える先端医療部門の勝ち筋とはどのようなものだろうか。直近での稼ぎ頭となるCDMOの場合、キーワードは、「高度化低分子医薬」「長鎖核酸医薬」「再生・細胞医薬」の3つだ。


 高度化低分子薬の定義は示していないが、戦略は明快。「低分子は当分、主役」(岩田社長)とするなか、国内準大手・中堅製薬をターゲットに、新薬CDMOに力点を置く。後発品の受託で数量を稼ぐのではなく、技術的に難易度の高い新薬を積極的に請け負うことで利益率を確保しようというのだ。その後、住友化学が実用化したゲノム編集用ガイドRNAを用い、長鎖核酸医薬のCDMOを拡大。後述する「S-RACMO(エスラクモ)」を中心に、 30年代以降に大きな成長を見込む再生・細胞医薬CDMOにつなげていこうとする。


 再生・細胞医療は、収益化はもう少し先のイメージ。住友化学グループ全体で30年代半ばには最大1000億円超の売上収益をめざす。研究開発や事業化を手掛ける「RACTHERA(ラクセラ)」と製造を引き受けるエスラクモの2社が主役だ。ともに住友化学66.6%、住友ファーマ33.4%という資本構成となっている。


 2月に営業を始めたラクセラは、住友化学が株式の過半を握るが、住友ファーマ出身の池田篤史氏が社長に就くなど、実質的に同社を仕切る。両社関係者の情報を総合すると、これは財務悪化によって研究開発費を半減するなど厳しい状況にある住友ファーマの負担を軽くするための措置という。


 つまり資金面は住友化学が支え、研究開発などは知見を重ねている住友ファーマが主導するという役割分担なのだ。ラクセラ主要メンバーが住友ファーマの再生医療推進室と兼務し、表裏一体の体制なのはその証拠。ラクセラ会長でもある住友ファーマの木村徹社長は、「こうすることで信頼性保証など連携を必要とする社内各所と密接につながることができる」と狙いを明かす。


 現在、ラクセラが抱えるパイプラインは5品目。うち他家iPS細胞を用いたパーキンソン病治療薬、網膜色素上皮裂孔治療薬、網膜色素変性治療製品はヒトでの臨床試験を始めている。


 最も先行するパーキンソン病治療薬は、京都大学での医師主導治験のデータを使い、条件・期限付承認を狙う。池田社長は、「25年度中の承認申請が必達目標。承認にまでこぎ着けたい」と力を込める。30年代にはパーキンソン病治療薬、網膜色素上皮裂孔治療薬、網膜色素変性治療製品の3品目が「実用化できているようにしたい」と展望する。