「これは命に関わる問題ですから、起こってからでは遅いんですよ」


 いわゆる「健康食品」の健康被害について議論された、14年3月25日の衆議院消費者問題特別委員会。発言した共産党の穀田恵二衆院議員の矛先が向かった森雅子食品安全担当相は「紛らわしい宣伝や消費者が困惑するような表示による消費者トラブルにつながらないように制度設計をしてまいりたい」と応えるのが精一杯だった。


 それから10年経った24年3月、小林製薬は紅麴の成分を含んだサプリメントを摂取した人から健康被害の報告があったと発表。いわゆる「紅麹問題」は瞬く間に全国を揺るがす社会問題と化し、その後の健康被害への補償事務が長期化したことも災いし、同社の24年12月期は、純利益前年比50.5%減(100億円)という、99年の上場以来最悪の減益決算となった。


 健康食品・サプリメントは、今や我われの日常生活に欠かせない重要な役割を果たしており、市場規模は1.5兆円規模まで膨れ上がっている。この成長の背景には、健康志向の高まりや国際市場での需要増があるが、一方で規制の不在や、品質管理の課題が近年急速に問題となっている。


 その最たる例として知られるのは「プエラリア・ミリフィカ」だろう。バストアップやスタイルアップを謳った原材料配合の健康食品が販売され、ブームとなったが、このプエラリア・ミリフィカによる危害情報が、全国の消費生活センターなどに12年度から17年4月までの5年間あまりで209件寄せられ、嘔吐、腹痛、下痢などの消化器障害や発疹、じんましんなどの皮膚障害のほかに、月経不順や不正出血といった深刻な危害事例も多く報告された。


 プエラリア・ミリフィカは「医薬品と判断しない原材料」に区分され、一切の規制がなく、含有量や副作用警告もメーカー任せだ。同様にハーブ系サプリメントのセントジョーンズワートもストレス軽減や美肌効果を謳うが、抗うつ薬や避妊薬との相互作用で効果を減弱させたり、光過敏症を引き起こしたりする副作用がよく知られている。


 品質管理の面では、表示と実際の成分が異なるケースや、重金属や細菌による汚染の報告が増えてきている。10年代には、米国で規制緩和されたサプリメントから鉛やカドミウムが検出され、消費者の健康を脅かした事例が話題になったが、日本でも同様の問題が顕在化しつつある。


 さらに、誇張された広告が横行している点も見逃せない。「がんを治す」「免疫力を劇的に高める」といった根拠のない主張や虚偽広告は、景品表示法や健康増進法で禁止されているにもかかわらず、曖昧な表現(「サポート」「維持」など)が許容されるグレーゾーンが悪用されている。年間約200件の不当表示に対する指導が行われているものの、消費者庁の事後対応では市場全体を監視するのに全く追い付いていない。