難渋した実用化
DTxの製造販売認可を厚生労働省が初めて与えたのが5年前。しかし、実用化は難渋した。その背景には、製造販売承認と保険収載の制度不備などが存在した。この壁を打破するために、23年9月には厚労省と経済産業省がDTxを含むプログラム医療機器の実用化促進(DASH for SaMD2)プログラムを発表した。5年以内に早期審査を含む市販後の適応追加を認めた2段階審査整備や医薬品医療機器総合機構(PMDA)のプログラム医療機器審査部の拡充などに加え、英文審査データの受け入れなども提案した。海外からのDTxの導入に加えて、日本の企業が開発したDTxの輸出促進という大きな夢まで描いている。
今年1月まで製造販売認可されたDTxは3品目に止まっていたが、こうした機運にも助けられ、実用化までの閉塞感に風穴が開いた。2月13日に2製品のDTxが同時に承認を獲得、しかも厚労省の優先審査リストにDTxが掲載された。加えてそれ以外にも、調べた限りでは20製品以上のDTxの開発が進む。まさに、日本にDTxの実用化第2の波が押し寄せている。
第2期の実用化の号砲となったDTxは、キュアアップの「CureApp AUD飲酒量低減治療補助アプリ」と塩野義製薬の注意欠如多動症(ADHD)治療用の「ENDEAVORRIDE」(エンデバーライド)だ。
AUD飲酒量低減治療補助アプリはベンチャー企業のキュアアップが開発、減酒をアプリによる認知行動療法によって補助する。世界初のアルコール依存症治療補助のDTxである。患者がスマホにダウンロードした患者用アプリに、日々の飲酒量や体調を入力すると、患者用アプリがアルコール依存症に関する情報を提供したり、患者ごとに個別化された生活や減酒量目標などの提案を行ったりして、減酒に向けた患者の行動変容を助ける。一方、医師は医師用アプリで患者ごとの生活や飲酒量データを閲覧し、きめ細かく患者に飲酒量低減を指導することができるのが特長だ。
患者は診察時に体調や心境などを必ずしもすべて曝け出すことはないため、残念ながら診察にバイアスが起こる。有名な白衣高血圧などはその典型だが、アプリではそうしたバイアスも軽減される。加えて医師用アプリでは、最新の認知行動療法など、心理社会的治療の医師向け支援コンテンツを学習することもできる。
一方、米アキリから塩野義製薬が導入した「エンデバーライド」は、テレビ・ゲーム形式のDTxでADHDの治療を手助けするアプリだ。小児を対象とした日本初のDTxである。患児はゲームを楽しみながら、注意欠陥などのADHDの治療補助を得ることができるのだ。アキリのセールス・ポイントである 「SSMETM」(Akili Selective Stimulus Management Engine)という技術に基づき、認知機能に重要な前頭前野を活性化するため、画像や音で、患者の認知能力を刺激するようにデザインされている。SSMETMによって、患者ごとに最適化された二重課題を行うことで大脳皮質を刺激し、患者の不注意、多動性、衝動性を改善しようというのだ。
日本で行われた治験でも統計学的に有意な効果が確かめられた。エンデバーライドの画面はアメリカン・コミックそのもの。米国で先行して商品化した時に試したが、本当に文化の差を超えて日本でも治療補助効果を証明できるか心配だった。しかし、日本人の小児を対象とした治験が成功した結果、文化の壁をDTxが突破できることの証明になった。現在、塩野義製薬以外にアステラス製薬が海外からDTxをライセンスしているが、エンデバーライドの承認獲得で、海外のDTxを導入する企業が増えそうだ。