名古屋大学未来社会創造機構予防早期医療創成センターの大山慎太郎准教授は、院内全体の医療機器管理のために、医療機器に装着する電源タップ型のセンサー「ロケモニ!」を開発した。電流センサーで稼働を把握し、通信電波の強度で位置を特定するというシンプルな仕組みで、既存技術を柔軟に組み合わせた本デバイスは、医療現場と情報通信技術の両方に精通する大山氏ならではの発想から生まれた。このデバイスからは、名大病院のめざすスマートホスピタルの具体像、「地域の医療アセットの最適化」も見通すことができる。
「ロケモニ!」(写真)が開発されたのは、新型コロナウイルス禍による人手不足がきっかけで、医療機器管理に関する、さまざまな課題が浮き彫りになったことだった。医療機器の管理全般を担う臨床工学技士からは以前から相談を受けていたが、購入した検査機器の未使用や又貸しによる所在不明、故障機器の放置などの課題があった。同院では4000〜5000台の医療機器を41人の臨床工学技士で管理しなければいけないが、追跡システムがなく探索に時間がかかり、保守点検への投資も得にくい状況だった。さらにコロナ禍で医療機器が増加する一方、稼働率の不透明さにより投資対効果や適正台数の判断も難しくなっていた。
「ロケモニ!」の本体、提供=ケアコム
「『機器が見つからない』という課題は以前からありましたが、ひとつの困りごとにひとつのソリューションを当てると多くの場合は高コストになってしまうので、他の課題と一緒に解決できればと考えていました。そこで稼働率の問題が出てきたので、稼働率を数字で見せることと機器を追跡することは一緒にできるのでは、ということから考え始めました」と大山氏は説明する。元々懇意にしていた名古屋工業大学のチームや、共同研究などの実績のあった企業と協力し、20年ごろから開発を始めた。
「ロケモニ!」の仕組みは明解だ。医療機器の電源コードを「ロケモニ!」に差し込み、電流センサーで稼働状況を検知(図1)。この情報は通信技術のひとつ「LoRa(ローラ)」によって病院内の基地局を経由し、データサーバーに送られる。機器の位置把握には、Wi-FiアクセスポイントとBLE(Bluetooth Low Energy)ビーコンという2種類の通信技術を併用。これにより半径5メートル程度の精度で機器の位置を特定する。
管理者はクラウド上のデータにアクセスすることで、機器の稼働状況や所在地をリアルタイムで確認できる(図2)。医療機器本体に手を加えず、電源タップに通信機能を持たせる設計で、医療機器承認申請が不要となり、低コストでの導入を実現している点も特徴だ。
実際に院内で「ロケモニ!」を使用した結果、外科系集中治療部(SICU)に配置された9台の血行動態監視装置の最大同時稼働が4台だと判明し、5台を別のICUや手術室などへ再配置できた。現場から不満の声が上がることもなく、「4台に減らした後も稼働率は継続的に監視しています。上昇傾向が見られれば台数を追加することも可能であるため、現場からも理解を得やすい」と大山氏は述べる。医療機器の探索時間も約5割短縮されており、現場からは好評を得ている。
現在は保守や修繕の管理システムとの連携や、電流波形から消耗品交換やメンテナンス時期を予測する機能、分かりやすいインターフェイスへの改善なども検討中だ。
「ロケモニ!」が、今の形状や採用技術に至るまでには試行錯誤があった。当初はタグや加速度センサーなども検討したが、最終的に電源タップ型に行き着いた。機器の使用実態の観察と、医療機器でないためカスタマイズが容易という利点、「医療現場で、ケーブルに足を引っかけて機器が壊れてしまうことを防止するために電源タップを使っているのを見ていました。それならIoTタップでいけるのでは」と考えたという大山氏の観察も活かされた。通信方式の選定は、他の通信技術とも比較しながら、慎重に検討を進めた。
とくに既存のWi-Fi(2.4GHz帯)との干渉を避け、かつ少ない基地局でカバーできる通信規格という条件を満たせるのは、病院独自のプライベートLoRaネットワークだけだった。以前に患者の位置把握システムでLoRaを検証した経験があったことも活かされた。位置把握には、Wi-FiとBLEビーコン以外に地磁気も検討し、今のかたちに行き着いた。
プロジェクトの成功には、医療と工学の両分野に精通する大山氏の存在が不可欠だった。「臨床側の人間でありながら、工学系や情報学の知識もあることで、医療現場のニーズを工学の言葉で伝えることができました」と語る大山氏の橋渡し的役割が、効果的な解決策を生み出した。さらに、協力関係にあった名工大の研究室が「課題解決を研究室のテーマにしていたため、特定の技術へのこだわりがなかった」ことも、成功の要因として大きかった。
昨年6月の「電波の日」東海総合通信局長表彰受賞を経て、「ロケモニ!」はケアコムで販売に向けて検討中だ。医療分野を超えて工場での活用も検討され、既存技術の柔軟な組み合わせによる実践的な課題解決の好例となっている。