大山慎太郎
名古屋大学未来社会創造機構予防早期医療創成センター准教授(提供=システムリサーチ)


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——「ロケモニ!」の開発により、医療機器の適切な配置が可能になりました。医療機器管理の将来像をどのように描いていますか。


大山 「ロケモニ!」は名大スマートホスピタル構想の一環として、医療アセットの可視化を進めています。総合病院型の医療は「ヒト・モノ・場所」のリソースが多く、基本的にピーク需要に合わせて保有しています。その結果、医療の「押し付け」が起きやすくなります。例えば、クリニックがMRIを導入すると、高額な固定費を回収するために不要な検査を勧めてしまう可能性があります。病院でも、日帰り手術のできる人に、ベッドが空いていたら入院を勧めることがあります。医療資源が足りないところには足りていない一方で、あるところにはある。このような医療資源の偏在が、日本の医療における根本的な問題です。コロナ禍で顕在化したインフラや設備、医療材料、医療従事者の不足も、この構造的な課題に起因しています。



——医療資源の問題はたらい回しなど救急医療に表れやすいですね。


大山 救急医療では、手術室や術者、病床、救急外来のすべてが揃う「奇跡のマッチング」がないと患者を受け入れられません。特殊な症例、例えば指の切断や眼球破裂などはとくにそうです。ただ実際は、術者が手術中でも「ここしか受け入れられないだろう」と考えており、病院の高い意識で成り立っている面もあります。


 しかし、例えば術者は不在でも他が整っている病院があれば、術者が空いている病院から医師を派遣することで対応できるはずです。各リソースの空き状況を可視化し、地域で共有できれば、より効率的な受け入れ体制が構築できます。



——地域全体での資源活用について、具体的構想を教えてください。


大山 私はMaaS(Mobility as a Service)になぞらえて、HaaS(Health care as a Service)と呼んでいます。医療をひとつのサービスとして捉え、受診から介護サービス、救急医療、保健医療まで一括して手配できる仕組みです。医師や検査・手術室、医療機器を病院の枠を超えてマッチングすることで、低コストで質の高い医療提供が可能になると考えています。


 実際に当院では、北部の済衆館病院と連携した救急患者の受け入れを行っています。少し待てる外傷手術であれば、当院で受け入れられない時は済衆館病院が受け入れて、当院の医師が業務終了後に向かい、手術を行います。また、地域で医療機器を共同購入・共同利用することで、個別購入のコストを抑えながら、災害時の備えも可能になります。


 

——名大のスマートホスピタル構想の考えをお聞かせください。


大山 構想当初は、テック技術で病院の機能を豊かにしようという考え方でした。私は大枠では賛成でしたが、漠然とし過ぎていると感じており、私自身の課題感からもアセットの可視化から始めるべきと考えました。「ロケモニ!」以外にも、看護師の手指衛生や業務負荷の可視化、手術室の効率化研究などもその一環です。


 病院は公共性の高い施設です。地域医療の向上には機能のオープン化が必要です。外部からの検査予約や待ち時間の短縮など、技術で解決できることは技術に任せていけばよいと考えています。



——遠隔診療の新しい可能性についてはどうお考えですか。


大山 一般的な遠隔診療は医師がクリニックから在宅患者を診察するモデルですが、私は逆の形のほうが医師の移動時間を削減でき、効率的だと考えています。患者がクリニックに来院し、医師は大学や自宅から診察。必要な検査は現地のスタッフが行い、結果を遠隔で確認するという形です。


 名大病院と連携するナゴヤガーデンクリニックは、名大病院の各診療科の医師が外来診療を行い、CTやMRIなども備えています。普段は対面ですが、カルテをクラウドにしてあるので、何かあれば医師が大学にいても診察できるようにしてあります。



——国内の医療機関はどこもDXに高いハードルがあります。アドバイスをください。


大山 今のDXは「デジタル化」に偏りすぎています。新しいフローの追加、費用負担、導入の手間という「三重苦」が生じ、類似事例の導入も病院の多様性からとん挫しがちです。まずは既存の業務フローを見直し、各部署で異なる手順書の統一など、アナログな改善から始めるべきです。そのうえでデジタル化を進めることで、より効果的な変革が可能になります。