GLP1の抗肥満薬は急拡大
アッヴィが抗肥満薬に参入しようとしているのは、抗肥満薬市場が急拡大しているためだ。抗肥満薬を含むGLP1受容体作動薬、GIP/GLP1受容体作動薬の市場は、24年には44%増の530億ドルに達し、前期比で163億ドルも増加した。表1では主な製品の売上げを示した。これらはノボノルディスクとイーライリリーの製品だけであり、表の製品だけでリリーの製品は92億ドル増、ノボは十分な供給ができなかった影響もあり、81億ドル増だった。
また、表1では米市場も世界市場も44%増となっており、米国だけでなく、世界的に使われるようになっている。米国では、医薬品の採用を決めて薬局に支払いを行う中間業者であるPBMに約50%ものリベートを支払っていることから、リリーは24年8月に自社で直販サイトを開設し、1回ごとの注射キットではなく、患者が自分で注射器に入れるバイアルの2.5㎎月4回分を設定薬価の半額以下の399ドルで発売した。5㎎は549ドル。抗肥満薬は患者が加入する保険でカバーされていないことも多いため、患者全額負担の場合、処方箋さえあれば、この全額を支払えば、患者の自宅に届く。
これにより、リリーは注射キットにする工程とコストが省け、供給不足解消にも貢献した。25年2月には7.5㎎、10㎎も追加し、5〜10㎎はいずれも499ドルで買えるようにした。
ノボノルディスクは直販への対応が遅れていたが、3月5日、直販のノボケア薬局を開設し、抗肥満薬「ウゴービ」のすべての用量を月4回分が499ドルで買えるようにした。米国の薬価は1349ドルもするため、患者全額負担の場合、63%引きで買える。こちらはバイアルではなく、1回ごとの注射キット4本で、リリーと同価格だが患者はこちらのほうが便利だ。
3月6日、ドイツのメルクKGaAが決算を発表した。独メルクは「バベンチオ」を販売しており、PD1/L1の免疫腫瘍薬市場をまとめた。中国のメーカーはベイジーンを除いてまだ決算を発表していないので、上半期売上高からの推定である。一部の製品売上げ非公表のメーカーは加えていない。
表2では6億ドル以上の製品と市場全体の数字を示した。この市場も米国と世界市場がいずれも15%増となっており、ドルベースでは世界全体で70億ドル増の544億ドル。この伸びは世界最大の医薬品でもあるメルク(MSD)の「キイトルーダ」だけで45億ドル近く増加したことが貢献した。
表2で40億ドル以上の4大製品のうち、ロシュの「テセントリク」が伸びていない。米国では皮下注射剤を発売済みだが、米売上げは▲7%の20億ドルで、4大製品で唯一のマイナスだった。日本でもサノフィから開発元のリジェネロン販売に代わったPD1抗体の「リブタヨ」が好調で、40%増の12.2億ドル。これに対し、独メルクのバベンチオは5%しか伸びておらず、24年は8億ドル弱。23年6月までファイザーと共同開発・共同販促していたにもかかわらず、後で登場したリブタヨの3分の2の売上げであり、キイトルーダと重なる薬効も多いことが影響している。