①学術訪問交流

 学術訪問交流とは、医薬品企業の医薬代表と医療機器プロモーター(以下、MR)が医療従事者に対して、医薬品・医療機器に関する学術プロモーション活動を行うことを指す。


 医薬品企業はMRを学術訪問交流に参加させることができるが、MR資格を持っていない人は学術訪問交流に参加してはならないとしている。例えば、MR資格(登録制)を持っていない上司の同行訪問は認められない。


 医薬品企業が学術訪問交流を実施するには、下記の事項に注意しなければならない。


 まず、医薬品企業は、衛生健康部門や医療機関などのMRの受け入れに関する管理規定を遵守し、自社のMRの職責と行動を規範化する。医療機関を訪問する際、医療機関側の規定を遵守し、許可された時間と場所で訪問活動を行う。


 ガイドラインでは、学術訪問交流を行う際、次の行動リスクの識別と防止に注意する必要があるとしている。


 医薬品企業がMRに販売業務を割り当てたり、代金回収や売買に関する勘定書の処理などの販売実務をさせたりすることが禁止されている。MRに販売ノルマを課すことが明確に禁じられている。また、MRは医療従事者による医薬品の適正使用を妨害したり、影響を与えたりしてはならない。


 さらに、MRが医療機関または医療従事者に対し、医薬品の処方枚数や統計データの共有を求めることを禁止する。また、医療従事者に対して、医薬品の処方、推薦、使用、購入を促すため、財貨またはその他の不当な利益を与えることを禁じるとしている。


②業務上の接待

 ガイドラインの「業務上の接待」とは、医薬品企業が業務中の医療従事者に提供する食事などの会食を指す。


 接待を行う際の飲食に要する費用は合理的かつ適度な価格に限定すべきだとしている。つまり、MRと医療従事者との会食は認められているものの、節度のある接待が望まれるということだ。


 ただし、医薬品企業はビジネス活動において業務上の接待を行うには、行動リスクの識別と防止に注意を払う必要がある。


 ガイドラインでは、医薬品企業は不適切な頻度の接待または商慣習を逸脱した接待を禁止している。接待場所として、観光名所の高級リゾートや、娯楽活動に関連する施設を選択しないよう求めている。


 また、医薬品企業が接待の対象となる医療従事者の近親者等に、何らかの利益を与えることを禁止している。つまり、接待は医療従事者に限定されている。


③寄付と資金提供

 ガイドラインの「寄付」とは、医薬品企業が法律・法規に基づいて自発的かつ無償で、資金や医薬品、医療機器またはその他の財貨を寄付先に提供することを指す。ただ、医薬品企業が寄付を行う際は、あらゆる面で注意を払う必要がある。


 まず医薬品企業が寄付を行う際は、合法性と公益性に基づき、自発・無償という前提条件を堅持した場合のみ、寄付先に直接寄付したり、慈善団体を通じて寄付したりすることができる。ただし、慈善団体を経由する場合は、その団体の背景や実績、寄付先の選び方、寄付するものの妥当性などを評価すべきだとしている。


 次に医薬品企業による寄付は、関連の法律・法規を遵守し、デューディリジェンスなどを通じて、寄付活動の真実性と公益性を確保する。また、医薬品企業は寄付先と寄付協定を締結し、寄付協定の承認、署名及び履行に関する資料を適切に保管しなければならないとしている。


 そして、寄付が非金銭的な現物の場合、その品質などは国の基準と要件を満たさなければならない。金銭で寄付する場合、医薬品企業は銀行振り込み方式で、寄付先の法人の銀行口座に振り込むこととしている。


 また、ガイドラインでは、寄付に当たって医薬品企業が実施してはいけない事例が示されている。


 医薬品企業は、医療従事者の研修と育成、医療・保健分野の学術活動、科学研究のために使われる寄付に対して、具体的な受益者を指定してはいけない。つまり、特定の医療機関やその内部部門、医療従事者個人への寄付は認められない。該当地域の医療を管轄する衛生健康管理部門が、医薬品企業の寄付金をまとめて受け入れることになる。


 また、医薬品企業が寄付を名目に、ビジネスやサービスのチャンスを獲得し、医薬品の処方または使用、優遇条件または経済利益、知的財産権、研究成果、統計データ及び情報などの権利を獲得することを禁止するとしている。


 以上、医薬品企業によるMRの訪問や接待、寄付における注意事項と禁止事例について簡単に紹介した。


 なぜ、新たにガイドラインを打ち出したのか。その背景として、SAMRは「近年、我われが実施した調査や処分を科したケースを見たところ、医薬品産業の商業賄賂問題が繰り返し起きていることがわかった。これは医薬品産業の競争が激しいことに加えて、製薬企業の技術革新能力が不足しているためだと考えられる。しかし、根本的な原因は、やはり企業のコンプライアンス体制が不十分であることだ」と指摘した。


 医薬品企業のコンプライアンスの問題は、中国の国内企業のものだと思いがちだが、実際は、外資企業でもしばしば問題になっている。中国に進出している日本企業もぜひガイドラインを遵守するよう、現地法人に周知徹底したほうが無難だろう。