ではそのメタ解析から、治療効率を探ってみよう。確かに収縮期血圧「130未満」目標降圧は「140未満」に比べ、CV疾患を有意に抑制していた。ただしNNT(治療必要例数)は「73」だ(観察期間は不明)。「CV死亡」に限ると「257」まで上昇する。


 これらはCV2次予防・高リスク患者を主として対象にした試験の数字だ。よりリスクの低い、いわゆる普通の高血圧患者であれば、NNTはさらに膨れ上がるだろう。


 一方「重篤有害事象」は、「130未満」目標降圧において「106」という害必要数(NNH)が得られた。さらにNNHは不明だが「130未満」目標降圧で「140未満」に比べ「低血圧」リスクは1・96倍に有意上昇していた。「失神」リスクも2・36倍である。


 先述したESHのGLの懸念が現実味を帯びてこないだろうか。加えて考慮すべきは「130/80未満」まで下げる治療コストだ。


 幸いなことに今回の新ガイドライン「叩き台」では第一選択薬として、CV予後改善作用が証明されている降圧薬の単剤使用を推奨している。いずれも後発品が存在する降圧薬だ。


 ただし、単剤で効果不十分な場合は、なぜか第一選択薬に入っていない高価な先発品降圧薬の追加併用も可とされている。それらの薬剤には「高血圧における脳心血管病発症抑制についてのエビデンスはない」と認めながらである。


 従来のGLは04年版以来一貫して、第一選択薬単剤で降圧不十分な場合、第一選択薬間の併用を推奨してきた。また04年版ではα遮断薬が「エビデンスは少ない」という判断で、併用薬としての推奨は極めて限定されていた。その意味で今回の推奨は、21年ぶりの大転換である。その理由やいかに。


 とまれ、NNTやNNH、有害事象リスクも考慮に入れた医療経済、あるいは医療保険財政維持の観点からも、今回の「叩き台」は評価されるべきだろう。