新薬の薬価算定方式には、類似薬効比較方式と原価計算方式がある。類似薬がある場合には類似薬効比較方式、ない場合には原価計算方式を用いる。画期的な医薬品であればあるほど、過去に類似したものがなく、原価計算方式を適用する機会が増えることになるのは必然と言える。それゆえに「算定の透明性」が厳しく問われてくる。そこで、各企業の製品総原価の「開示度向上」という取り組みや、それに対する働き掛けが絶えず、行われてきた。


 ただ「企業の取引や製造・輸入形態など、個々の品目の事情によって(開示度向上には)一定の限界がある」というのが、製薬業界の立場だ。そこから「不透明」「ブラックボックス」などと批判の多い原価計算方式の採用を減らし、「類似薬効比較方式による算定を進めるべき」との主張につながる。それには「柔軟な類似薬選定」が必要になってくるというわけだ。


 こうした主張が繰り広げられるようになったのは、最近の話ではない。18年度の薬価制度抜本改革以後、ここ5年ほどは同様の考え方が製薬業界から示されている。


 19年の日本製薬団体連合会の提言は、類似薬の有無の選定で「臨床的位置付けなどの医療実態を含めて総合的に勘案すべき」といった内容だった。効能・効果や薬理作用だけでなく「希少疾病への該当性」「対象疾患の重篤度や特性」「治療薬の予測投与患者数」「従来の治療方法(薬、手技)」との違い」などの要素を列挙した。


 しかし、20年度、22年度、24年度と3回の薬価制度改革を経ても、新薬創出・適応外薬解消等促進加算の見直しなど、他の優先事項に埋もれる格好で「柔軟な類似薬選定」には至っていない。


 26年度改革に向けて、日本製薬工業協会は「疾患特性や製剤特性を総合的に踏まえて柔軟に類似薬を判断できるようにする」ことを求めている。疾患特性による類似性には「適応症が指定難病で、同じような要介護状態に陥る」、製剤特性による類似性には「注射の回数が少なくて済み、操作も簡便で負担が小さい」と例示している。


 製薬協が考える方向性は、短期的には、26年度をめざし「柔軟な類似薬選定」を実現しつつ、中長期的には、類似薬のあり・なしに捉われることなく「一定のルールの下で企業自らがエビデンスを示し、医薬品の価値を提示する仕組み」を構築するというものだ。いわば、これまでにない「第3の算定方式」の導入が視野にある。


 一方で、これまでにも民間のシンクタンクなどから、さまざまな考え方が示されてきた。薬価収載時から一定期間は、メーカー届出価格で保険償還を認める「企業届出価格承認制度」や、原価計算方式に代わり、メーカーが「薬剤価値を立証するデータ」を当局に提出する方式などだ。


 革新的な医薬品の増加や、モダリティ(治療手段)の多様化にどう対応していくのか。既存の算定方式に無理やりはめ込むのは限界というのは、関係者の認識が一致するところだろう。(市川)