昨年末、政府・与党が「高額療養費制度」の利用者負担限度額を段階的に引き上げる案を示した。これに対して、がんや難病の患者団体が凍結を訴え、超党派の議員連盟が発足するなど反発が広がっている。結局、この8月からの負担限度額引き上げは見送られることとなった。夏に参院選を控え、野党だけでなく自民党と公明党からも方針撤回を求める声が出たためと報道されている。政府は26年8月以降の方針を再検討するとしていたが、今後の動きが注目される。
長期間の闘病を強いられるがんや難病患者のことを考えると、利用者負担額の引き上げに反対するのは当然のことだ。病気をすれば健康なときのようには働けず、経済的に追い詰められる人も多い。そのうえ昨今の物価上昇で、多くの人の生活が苦しくなっている。むしろ利用者負担限度額を引き下げてほしいくらいだ。
その一方で、国民医療費の膨張を止めたい政府側の考えも理解はできる。昨年10月11日に公表された厚生労働省の「令和4(22)年度国民医療費の概況」によると、国民医療費は前年比3.7%増の46兆6967億円にまで膨らんでいる。GDP比も00年には5.61%だったのが、22年には8.24%となった。
それに伴い、国民の保険料と国庫及び地方の支出額も当然増えている。重い病気でない限り窓口での支払い額は少ないので、日本の医療は安いかのように錯覚してしまいがちだが、結局、国民医療費はすべて国民が支払っている。つまり、医療費の膨張で我われの負担は重くなる一方なのだ。
それだけに、是非とも国民医療費の膨張を止めてもらいたいのだが、その原因はどこにあるのか。よく言われてきたのが、とくにがん領域での医薬品や医療機器の超高額化だ。ただ、前出の「概況」に掲載されている「傷病分類別医科診療医療費構成割合」を見ると、「新生物〈腫瘍〉」は意外にも2番目の14.7%で、1番多いのが「循環器系の疾患」で18.2%だった。つまり、高額療養費制度を使うことの多いがん患者ばかりが、国民医療費を押し上げているわけではないということだ。