▽市場を牽引する製剤は今年のメディケア価格交渉と肥満療法給付適用拡大で政策の焦点だ

▽トランプ政権は薬価抑制の仕組みを受け継ぐ姿勢を示唆する。利用拡大の条件になるのか



 成人の40%超が肥満という米国で、政府はセマグルチド3剤をメディケア薬価交渉第2ラウンドの対象とし、肥満治療を保険適用する「拡大解釈」案とセットでGLP−1製剤をめぐる政策論争の様相を検証する計画を立てた。糖尿病療法に続いて、心血管・腎疾患のリスク管理を伴う強力な減量効果が自慢の肥満療法のアクセスを開放すべきか、活発な議論が展開される。


 前政権が敷いたレールはひっくり返されかねないが、1月末、上院公聴会でロバート・ケネディ Jr.は、価格交渉の継承を約束した(療法の価値166)。透明性の約束は見直しの示唆と勘ぐられたが、逆に違憲差し止め訴訟控訴審で、司法省は、プログラムは合法と原告の主張を否定する意見を出した(注①)。



 議会、保守派法曹界、シンクタンク、前政権の政策担当など周囲には薬価交渉条項の批判が根強い。


「低分子製剤の交渉開始時期を延ばしてほしい」。同じ2月19日、要望を絞ってホワイトハウスを訪れた製薬業界幹部の期待を打ち砕く意見書だった。


 12月のトランプ私邸訪問に続いて今回も、何が話されたのか沈黙が支配した。3日後ブルームバーグが「2人の事情通」の話を伝えた。法修正に直接答えずに大統領は、保健福祉省(HHS)長官と実務を担うムハメッド・オズ・メディケア&メディケイドサービス庁(CMS)長官は「薬価引き下げに焦点を当てる」「ほかの国に比べて米国薬価は高すぎる」。一次政権時代に繰り返した見解を口にした(注②)。


 修正は「減税法案を難しくする」。法修正が困難な背景に加え、海外の製造拠点を移さないと「関税が待っている」と厳しい通告もあった。


 21日にはFOXニュースで、GLP−1減量薬と名指しせずに「ロンドン(英国)で200ドル、米国では1,300ドル」の価格差に言及した。


 米国研究製薬工業協会(PhRMA)会長に就いたアルバート・ブーラ(ファイザーCEO)の、2日後のホワイトハウス再訪は侮辱の日になった。黒人人権擁護セレモニーで大統領から偉大なビジネスマンと紹介されたが、参加者からブーイングがもれる姿がSNSに流れた。


 ワクチン開発のオペレーション・ワープで懇意の大統領、共和党主導の政治は機会に溢れると「慎重な楽観」を語っていたブーラの思惑は外れた。


 ベテラン・ウォッチャーは1月に退任したFDA医薬品局長を最高医学責任者に迎えた行動を「今年最悪の製薬CEO」と断じた。ファイザーの新薬開発に貴重だとしても、ケネディ Jr.長官が米国食品医薬品局(FDA)と製薬業界の「なれなれしい関係」を告発するなかでPhRMA会長がとった「間抜けの行動」だ(注③)。