欧州の生産者に影響
関税は欧州の生産者にも影響を与える見込みだ。23年にはアイルランド(20.4%)、ドイツ(10.8%)、スイス(8.6%)が対米医薬品輸出の上位に入っている。
アイルランド産業開発庁のマイケル・ローハン最高責任者は、アイルランドから米国に輸出される年間580億ユーロ(605億ドル)相当の医薬品の大部分は、さらなる加工を必要とする中間製品であるため、アイルランドの医薬品輸出は関税を免れる可能性があると示唆した。「関税が適用される時点は、販売時点なのか、それともサプライチェーンを通過する際の移動時点なのか。これは明確な違いになる」と指摘した。ローハン氏は世界貿易機関(WTO)のルールでは、現在ほとんどの医薬品は関税の対象外であり、「それが続くことを願っている」と述べた。
トランプ大統領が欧州に課す関税の範囲の詳細は明らかになっていないが、欧州大陸からのアルミニウムと鉄鋼の輸入に対して25%の課税が3月12日に発動される予定だ。欧州委員会のウルスラ・フォン・デア・ライエン委員長は先週、欧州は「断固とした相応の対抗措置をとる」と猛反発した。
米ファイザーのアルバート・ブーラCEOも、同社の製造事業が欧州で関税の影響を受ける可能性があると述べた。同社の受託製造部門であるファイザー・センターワンは、欧州大陸に約12の施設を有している。
ブーラ氏は米メディアとのインタビューで、ファイザーは中国やメキシコ、カナダでは医薬品原料、活性物質の製造を行っていないとし、まだ発表されていない国家や地域での関税がどのように作用するかを見守っている。しかし今のところ、中国やカナダ、メキシコは私たちに影響を及ぼすとは考えていない」と語った。
米アムジェン、英グラクソ・スミスクライン、米メルクも、これら3ヵ国で発表された関税による影響はほとんどないと予想している。メキシコとカナダへの関税は、各国が米国と個別に交渉するため一度先延ばしされたが、3月4日から開始され、中国への関税は就任以降すでに始まっている。
スイス・ノバルティスは、関税が与える患者アクセスの影響について「過去において、関税やその他の貿易障壁は、患者が必要な医薬品を受け取る妨げになる可能性があるため、医薬品には適用されてこなかった。米国の新たな貿易政策は、不用意に患者に害を与えることなく、世界中の不公正な貿易慣行を排除することに焦点を当てるべきである」と懸念を示した。
その他では、米フロンティア・サイエンティフィック・ソリューションズが、自社のサプライチェーンが関税から免除される可能性があると表明している。プレスリリースで、ノースカロライナ州のウィルミントン国際空港にある自由貿易ゾーン施設は、製薬企業に関税免除を実現できる可能性があるという。この施設を使用することで、企業は関税を回避したり、製品が米国に入るまで余分なコストを先送りしたりすることができると説明している。
トランプ政権の関税計画は、海外製造に依存する複雑なサプライチェーンのために、米国医療機器業界を動揺させている。中国やメキシコ、カナダに向けられた関税が短期的なものなのか長期的なものなのかは不明だが、その影響は医療機器業界にとって大きなものとなる可能性があると、サプライチェーンの専門家は予想する。医療機器企業は海外調達に依存しており、米国内で機器を生産していても、原材料や組立品は他国から調達している。