■データ利活用やライフコースも視野に


【第2期における環境の変化】第2期に採用した統合PJによって、開発目的が明確になり、研究者の実用化に対する意識が変わった。また、研究開発モダリティをPJに統合した結果、新たな医療技術をさまざまな疾患に展開できるようになった。したがって、モダリティ等を軸とした統合PJ体制は基本的に有効に機能したものと評価された。


 一方で、20~24年度にはかねて存在していた「ドラッグ・ラグ/ドラッグ・ロス問題」および「わが国の医薬品等産業の国際競争力低下」の顕在化やコロナ禍など、医療分野の研究開発を取り巻く環境の変化があり、新たな課題が生まれた。具体的には「出口志向の研究をリードできる人材の育成」「国際水準の臨床試験の実施」「アカデミアやスタートアップによる絶え間ないシーズ創出と育成」「将来の感染症有事に備えるためのワクチン・治療薬・診断薬開発」や「予防・重症化予防・健康づくりに資する保健事業やヘルスケアサービスの創出」の必要性などである。


 また、第1期と比較して第2期では改善したものの、依然「関係府省庁に紐づく施策・事業間の壁」があることも指摘された。

 

【第3期の事業運営体制は“立体的”】そこで、25年度以降に向けて、統合PJ方式を継承しつつ、それだけでは十分に解決できない「実用化に向けた統合PJの課題」「新たな創薬モダリティの研究開発」「データの利活用方策」「臨床研究のさらなる充実」「基礎研究の強化のあり方」などについて、PJ間の連携強化や体制を見直した。その結果、第3期は9つの統合PJと、それを横断する疾患領域での研究開発を以て事業を運営することになった〈図2〉。以下に具体的な内容を述べる。


 

 ❶医薬品PJ、❷医療機器・ヘルスケアPJ、❸再生・細胞・医療・遺伝子治療PJを維持しつつ、❹感染症PJを創設し、将来起こりうる新たな感染症パンデミックへの対応として感染症関連事業を集約することとした。


 また、生殖・妊娠期から老年期までの長期のライフコースを通して疾患研究を行うべきものは❺データ利活用・ライフコースPJにまとめ、生涯を通じた健康データからリスクを解明し、問題が顕在化する前の予防法等の開発を推進することにした。具体的には「ゲノム・データ基盤の整備・発展・利活用の促進」「データを活用した病態解明※」「実用可能な予防・診断・治療法の新規開発」「ゲノム医療・個別化医療の実現に向けた研究開発」などが想定されている。


 ※対象は、がん、移植、精神疾患、認知症、成育(医療)、女性(特有の疾患やリプロダクティブ・ヘルス)、生活習慣病領域疾患(循環器疾患、糖尿病、腎疾患、免疫アレルギー、長寿科学を含む)、難病など。


 第2期に引き続く❻シーズ開発・基礎研究PJでは、アカデミアの組織・分野の枠を超えた研究体制を構築し、新規モダリティの創出に向けた画期的なシーズの創出・育成等の基礎的研究を推進するとともに、国際共同研究を強化する。


 新設された❼橋渡し・臨床加速化PJでは、「橋渡し研究支援機関を通じた医師主導治験」や「企業導出に向けた機関内外のシーズ発掘・育成支援」臨床研究中核病院医療系スタートアップ支援拠点との連携の緊密化」「臨床研究中核病院におけるドラッグ・ラグ/ドラッグ・ロス解消に向けた治験・臨床研究の推進」などを行う。


 ❽イノベーション・エコシステムPJは、AMEDに造成した基金によって「国内外のベンチャーキャピタル(VC)の認定」と「認定VCが出資するベンチャー企業への非臨床・治験段階の開発支援」「複数年にわたる幅広い産学連携での医薬品等の研究開発」などを実施する基金事業。上記「大学発医療系スタートアップ支援プログラム」と「創薬ベンチャーエコシステム強化事業」の連携・協力が核となる。


 疾患領域関連の研究開発は、統合PJとは異なる観点からの対応を要するため、第2期と同様に統合PJを横断する形で、特定の疾患をごとに柔軟なマネジメントを行う。


 AMEDの説明図を見ると、❶~❹のPJが同じ位置付けで、その背景に❺のデータ利活用・ライフコースPJがある。全体の基盤になるのが❻シーズ開発・基礎研究PJであり、❶~❺と❻をつなぐのが❼橋渡し・臨床加速化PJ、❽はいわば環境整備だ。第1期は一次元、第2期がマトリックス型の二次元だとすると、第3期は三次元のイメージで、マネジメントの難度が高い印象を受ける。


【事業予算の規模】内閣府健康・医療戦略推進事務局の『令和7年度 医療分野の研究開発関連予算 概算要求のポイント』によると、概算要求額のAMED対象経費1,065億円とインハウス研究機関経費803億円、計1,868億円のうち、❶医薬品PJは392億円と統合PJの中で最大の予算額であるが、各事業は10~50億円の範囲のものが多い〈図3〉



 さらに、三島氏が示した「2023年度 課題と研究開発費分布」〈AMEDデータブック 2023年度p.1〉によると、「課題あたりの研究開発費」は「1,000万円以上~2,500万円未満」にピークがあり、1億円超の課題は262件(9.8%)だった(23年10月時点)。同氏によると、AMEDの役割として「研究において優れたシーズを生み出す」ことに重きが置かれ、薬事承認までの前半部分に注力していることが現れた数字ではある。しかし、第2期中長期計画で「成果を一刻も早く実用化し、患者さんやご家族の元にお届けする」を掲げており、今後は「実用につなぐためにどういう役割を果たしていくか」が重要になるという。