最大の〝ギャップ〟をどう埋めるか


【識者からの指摘】AMEDと同じ内閣府の施策の「科学技術・イノベーション」の大きな括りの中で、「総合科学技術・イノベーション」枠には14年に開始された『戦略的イノベーション創造プログラム』(SIP:Cross-ministerial Strategic Innovation Promotion Program、エスアイピー)がある。SIPは、社会的課題の解決や日本経済・産業競争力にとって重要な課題を設定し、そのプログラムディレクター(PD)および予算配分をトップダウンで決定し、基礎研究から社会実装までを見据えて一気通貫で研究開発を推進するものだ。第3期(23~27年度)の現在は、14課題が年間280億円ほどの予算で進められている。その課題の一つが統合型ヘルスケアシステムの構築だ。


 永井良三氏(同課題PD、自治医科大学学長)は、3月4日に行われた令和6年度医工連携研究会(主催:東京都医工連携HUB機構)で『医療ITとAIの最近の展開:内閣府SIPの紹介』と題して講演。本題は、医療デジタルツインやIT/AI活用によって時間と空間を超えて医療情報が連結・整理・統合され、医療資源の利活用や医療現場の効率が悪い現状を変えて各種課題を解決する「医療版Society 5.0の実現」ではあるが、その前提として、わが国の医療を取り巻く現状を振り返り、「医薬品の輸入超過(22年は4.6兆円の貿易赤字)」「日本市場における内資系製薬企業のプレゼンス低下(22年の売上シェアは全体の36%)」などの数字を挙げた。


 また、「バイオ創薬の時代となり、日本には新たな“死の谷”が出現している」「アカデミアのアイディアやシーズから、バイオ創薬で高いレベルの開発品を創製し、早期臨床試験につなげていく“創薬段階”が日本では弱体化している」として医薬品の基礎研究から医療に実装されるまでのプロセスを俯瞰し、AMEDの支援については「基礎研究には充実しているものの、創薬初期やスタートアップへの支援が大きく不足」「資金支援規模が小さい」「創薬の専門家不在。かつ専門家による継続したハンズオン支援がない」などの点を指摘した。


 ちなみにAMED以外のステークホルダーについても「大手製薬企業でもバイオ創薬のプラットフォームを有するのは極めて限定的」「バイオ創薬を支援するCRO、製造を支援するCDMOも国内に見当たらない」「先端的バイオ開発品の臨床試験を行う実験施設・人材が不足」などの見方を示した。


【医薬品業界およびAMEDの自覚】こうした指摘は、AMED関係者自身も十分に承知している。


 シンポジウムで三島氏は、「創薬研究を例にとってAMEDが支援する研究開発の社会実装について考えてみたい」として「製薬協の上野会長が作成してくれた」図を提示〈図4〉。「AMEDの基礎研究から、その次の創薬研究開発に入る部分に大きなギャップがある」と永井氏と同様の認識を示した。



 その上で、アカデミアと製薬企業の双方からギャップを埋めるには、「適切な標的・モダリティ・適応症の組み合わせを念頭に置いた創薬研究に仕立てなければならない」「企業経験者の目線を加えて他研究と組み合わせ、創薬研究・開発プロセスに乗せる必要がある」。これを実現するために、「❶情報収集・分析(目利き)、❷出口戦略立案、❸案件調整を通じて、AMEDの事業間連携の機能強化を図っていくことが第3期の一つの目標」とした。


 AMED第3期は、理事長を三島良直氏から中釜斉氏へとバトンタッチして始動することが決まった。先述の『推進法』第8条には「連携の強化」として、国・地方公共団体・研究機関・医療機関・事業者の相互連携と協力によってはじめて、健康・医療に関する先端的研究開発や新産業創出が効果的に進むことに鑑み、国は連携の強化に必要な施策を講ずるべきことが述べられている。AMEDの運営には気が遠くなりそうなほど多くの事柄が求められるが、この分野での先端的な研究開発が進み、新産業が創出され、文字通り日本再興に貢献できるか、アカデミアにとっても医薬品業界にとっても正念場といえる。


2025年3月27日現在の情報に基づき作成

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本島玲子(もとじまれいこ)

「自分の常識は他人の非常識(かもしれない)」を肝に銘じ、ムズカシイ専門分野の内容を整理して伝えることを旨とする。

医学・医療ライター、編集者。薬剤師、管理栄養士、臨床検査技師。