■現場は実際どう動くのか 


 厚労省が公表したExcelデータをもとに、長期収載品1,095品目の内容を分析した。


【薬効分類別品目数:循環器とCNSで4割超】薬価基準収載医薬品コードから薬効分類別の品目数を見ると、循環器官用薬が約24%、中枢神経用薬が約21%だった〈図:薬効分類別〉

 主要分野について「繁用薬」「基本薬」「分野内で売上の大きい薬」「薬価に対する自己負担分の割合〔(薬価-GE最高価格)/薬価〕が大きい薬」などに注目してみた。

 特にデリケートな管理が必要な中枢神経用薬では、エビリファイ(大塚/9品目)、ジプレキサ(イーライリリー/7品目)、ロナセン(住友ファーマ/4品目)、イーケプラ(UCB/3品目)、ジェイゾロフト(ヴィアトリス/6品目)、リリカ(同/6品目)などが対象になっていた。

 一般報道やロビー活動で話題にのぼっていた外皮用薬のモーラス(久光/5品目)や皮膚科用薬のヒルドイド(マルホ/5品目)は、薬価が安くGE最高価格との差も大きくない。

 他分野より薬価が高い腫瘍用薬では、内用薬16品目、注射薬17品目が対象になっているが、選択理由は「医療上の必要」が主となるだろう。


【企業別品目数:10品目未満の企業も6割弱】該当の長期収載品を持つ企業は101社にのぼった。企業別では、田辺三菱、住友ファーマ、ヴィアトリスの3社が40品目超。品目数の多い企業はほとんど製薬協会員だった。ただ、武田系では武田テバが38品目であるのに対し、武田は13品目(アジルバとベネット/各3品目、リュープリン/2品目など)だった。一方で、10品目未満の企業は57社と半数以上を占め、ごく少ない企業も多かった(3品目/8社、2品目/14社、1品目/19社)。


【実施後の検証が重要】「長期収載品の選定療養」導入にあたっては、まず保険医療機関や保険薬局で働く医師・薬剤師自身が制度の趣旨と仕組みをよく理解し、混乱なく患者に伝え、運用する必要がある。そのためには、行政からの情報発信や現場の疑義の解決、職能団体のリーダーシップが欠かせない。メディアもミスリードしないよう心すべきだろう。しかし、「医療上必要」や「患者希望」がどの程度の割合になるかは流動的で、現状では何とも読めない。「国民皆保険の持続可能性」と「イノベーションの推進」両立という目的を達成する手段として適切・効果的か、検証し改善していく必要がある。



2024年6月19日時点の情報に基づき作成

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

本島玲子(もとじまれいこ)

「自分の常識は他人の非常識(かもしれない)」を肝に銘じ、ムズカシイ専門分野の内容を整理して伝えることを旨とする。

医学・医療ライター、編集者。薬剤師、管理栄養士、臨床検査技師。