■ライブDBで期待される研究の広がり


 この学会でもう一点、興味深く感じたのは、Baby’s Online Live Database(BOLDと称する研究プラットフォームだ。


【立ち上げの経緯】『赤ちゃん学』研究は現在、いくつかの課題に直面している。具体的には、人口減による乳幼児の減少、研究協力者のリクルートと維持の困難さ、サンプリングの偏り(移動など物理的制限で協力者が大都市圏に偏りがち)などだ。これらに加え、コロナ禍で協力者が研究機関に来にくい状況が生じたことから、2020年8月、日本赤ちゃん学会ライブデータベース研究部会と同志社大学赤ちゃん学研究センターが共同でBOLDを立ち上げた。24年4月からは同部会が法人化された「一般社団法人子どもの育ちとコホート研究・実践協会」が運営を担っている。


【BOLDの仕組み】研究協力者は、連絡先や研究に必要な基礎情報をBOLDに登録する〈図❶〉。研究者Aは、個人情報を取得することなく、BOLDを介して研究テーマに沿う協力者に参加を依頼する〈図❷〉。協力者が依頼された研究に参加した場合、研究データは研究者Aの手元に集まり、BOLDには参加履歴のみが残る〈図❸〉

 別の研究者Bが同様のテーマで縦断研究を行う場合、BOLDの参加履歴を見て協力者に参加を依頼する〈図❹〉。研究データはまず研究者Bの手元に集まるが〈図❹〉、連結キーによって匿名化したまま2つの研究のデータを連結〈図❺〉。研究者AとBの共同研究という形になる。


【現状と展望】昨年末現在で離島からを含め34都道府県からの登録があり、「気質と子どもの発達の相互作用」「1歳半・3歳頃の発達・行動の特徴は乳児期から見られるのか?」「赤ちゃんの視覚的な能力の発達」などをテーマに研究が実施されている。実際の運営には細かい手続きや事務が必要と思われるが、リクルートの手段や予算に制限のある研究者にも研究のチャンスが広がりそうだ。


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 『赤ちゃん学』のふんわりした響きとは裏腹に、従来の心理学・人文科学的アプローチだけでなく、認知発達神経科学や工学を駆使した最先端の研究が共有されている『日本赤ちゃん学会』。小児科、精神科、神経内科などの医学会と共通のテーマもありながら、個別の視点だけでなく、異分野の研究者が多角的に論じあえる貴重な場になっているものと思われた。


2024年9月9日時点の情報に基づき作成



本島玲子(もとじまれいこ)

「自分の常識は他人の非常識(かもしれない)」を肝に銘じ、ムズカシイ専門分野の内容を整理して伝えることを旨とする。

医学・医療ライター、編集者。薬剤師、管理栄養士、臨床検査技師。