築いてきたつながりを活かす


 高齢者の声を取り入れて開発を進めるには、日常的に本音を聞ける関係が必要だ。RSHの基盤には、藤田医科大リハビリテーション部門が長年にわたり地域に根ざして行ってきた取り組みがある。


 藤田医科大は13年に全国で初めて学校法人として介護保険事業の認可を受け、リハビリテーション部門が中心となり「地域包括ケア中核センター」を設立した。センターでは24時間体制で緊急訪問や看取り、小児や難病、精神疾患の在宅支援を行っている。さらに15年から豊明市、UR都市機構、豊明団地自治会、藤田医科大などが連携して、豊明団地の高齢化に取り組み始めた。高度経済成長期に建てられた豊明団地では高齢化が進み、独居高齢者が多いことが課題だった。そこで平日の日中に理学療法士などが「ふじたまちかど保健室」を開設し、健康相談や体操教室などを始めた。藤田医科大学生がリノベーションされた団地高層階に居住し、見守り活動などに参加するなどして、多世代交流や見守りも促進された。


 RSHはまちかど保健室の隣にあり、高齢者が気軽に立ち寄れて、実証実験への参加や意見を集めやすい環境が整っている。


 さらにRSHは、国や自治体の産学連携プロジェクトを活用し、ロボット開発や在宅医療介護を進める大学や企業と広く連携している。愛知県という国内有数の工業地域という特性も活かされ、これまでに40を超える企業との共同研究や開発を行い、年間約50件の新しい相談が寄せられている。今後もまちづくりとも併せ、多様な可能性が広がりそうだ。


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大高洋平 
 藤田医科大学七栗記念病院病院長、藤田医科大学医学部リハビリテーション医学講座主任教授、
ロボティックスマートホーム・活動支援機器研究実証センターセンター長(写真提供=藤田医科大学)



——国内でも珍しい、日本に適した在宅支援ロボットの実証の場としてRSHを開設されました。


大高 私たちは、患者さんの動きをロボットやセンサーなどで定量的に捉え、そのデータを基に「活動を支える」取り組みを行っています。この活動は在宅と病院の両方で進めており、RSHもその一環です。現場で実際に使われるものを開発するには、現場で開発、実証するというのが基本的姿勢です。多くの企業や大学では、現場を離れて開発が進められがちですが、それでは現実に即したものは生まれにくいと考えています。


——どんな企業とパートナーを組んでいますか。


大高 私たちの「活動を支える」という考え方に共感し、その活動を捉え、分析し、豊かにする技術を持つなど、私たちの方向性に合った企業とパートナーを組んでいます。基本的に、共同で研究や開発を行うことが第1条件で、私たちの考えが反映されて、より良いものを生み出していけるかがポイントです。企業の研究は、私たちの研究開発へのレバレッジだと考えており、大きな成果をもたらしてくれると考えています。


——日本の医療界では、リハビリテーションの重要性が十分に理解されておらず、治療との間に壁があると感じます。


大高 現在の医療や医学は、基本的には病気や怪我を治せば、自然と人々の生活が豊かになるという考え方が前提となっています。これは、特に感染症との戦いが主流だった時代には妥当だったかもしれません。しかし、今の高齢社会のなかで、慢性疾患が中心となる現在では、病気や怪我が治っても身体機能が損なわれているために、このモデルだけではカバーできなくなっています。そのなかで、活動そのものにフォーカスする「活動の医学」、リハビリテーションがとても重要になっていると思います。


 例えば、筋肉を使えば強くなり、体を動かせば動きやすくなるように、活動そのものが活動を促進する仕組みが人間には備わっています。また、たとえ右手が使えなくなっても、左手などをうまく使うことで元の生活を取り戻せることもあります。つまり、体や病気が完全に治らなくても、活動を支援することで生活を改善できるのです。この「システム的な解決」は、装具やロボット、環境改善などさまざまな方法で実現できます。活動を豊かにするために、無数の方法があるということです。


 これらを駆使して問題を解決していくのが活動の医学であり、それを実践するのがリハビリテーション医療だと考えています。活動の医学には無限の可能性があり、解決できない課題に対する答えがそこにあるのではと考えています。


——今後の展望は。


大高 「活動の医学」という分野には、まだ十分なフォーカスが当たっていないと感じています。リハビリテーション分野でも「活動を育む」と言いながら、ソリューションを見つけ出せていない部分が沢山あるように思います。こうした課題を、さまざまな企業と解決していくことは、とても楽しい挑戦です。ベストを追求すると終わりが見えてしまいますが、ベターを追い続ける限り、終わりはありません。ベターを見つけ出していくのは、非常に楽しいことです。


 高齢社会が進み、人手不足が深刻になる中で、高齢者や要介護者が長く住み続けるためには、テクノロジーが不可欠です。日本は経済力が低下しつつあるように感じますが、高齢社会には大きなビジネスチャンスがあります。企業も次のステップとして、高齢社会に対応する技術を模索しています。ここにビジネスチャンスが広がっており、世界市場でも勝機があると見ています。