もうひとつの疑問は、告発者の西播磨県民局長の死である。5月に県が内部告発文書を「核心的な部分が真実ではない」という調査結果を発表して県民局長を停職処分にした。その2ヵ月後の7月に死亡していた、というのである。が、この死亡とは自殺なのか、それとも病死なのか。なぜ死亡の原因を報道しないのか。知事周辺から嫌がらせを受けて、自殺したのではなかろうか。県庁発表からも告発者がわかっているのだし、マスコミは取材を続けたはずだ。


 なのに、なぜ死亡した事情を報道しないのだろう。普段、告発者を守れ、と言っていたはずではなかったのか。3年も続いた新型コロナのせいかもしれないが、記者自身が警察発表や県の発表ばかりに頼って記事を書くクセがついてしまい、取材を疎かにしたのではないか、という気がする。


 ところで、斎藤知事のパワハラ、おねだり、キックバックなどの疑惑は知事自身の性格的な問題ばかりだ。知事としての業績上の問題というのが見られない。唯一、阪神・オリックス優勝パレードの資金集めで信用金庫への補助金を増額して協賛金としてキックバックさせた問題くらいだ。が、百条委員会で、斎藤知事は否定している。実際に働きかけたのは片山安孝副知事だと報道され、副知事は斎藤知事の指示だったと語っている。どちらが発案したのかは不明だ。


 この問題は当初、協賛金が集まらなかったことから起こったらしい。オリックス・バッファローズは地元では人気がなかったのだろうか。民間の調査会社の人によると「パレードの協賛金は企業から集めるつもりだったが、オリックスはノンバンクで、中小企業の間では倒産のときにはいち早く債権を回収するなどと陰口されているため、企業からの協賛金が集まらなかったのではないか」なんて言う人もいる。


 もちろん、内部告発の犯人探しは許されるべきものではない。まして探し出した告発者を懲戒処分するなど、トップがやるべきことではない。狭量過ぎる。


 では、知事としての業績はどうなのか。昨年まではマスコミの評価は高かった。ざっと業績を挙げれば、上限付きでの私立高校の授業料無償化、知事公用車をそれまでの高級車のセンチュリーをやめ、ワンボックスのアルファードに替え、経費を3分の1に節約した。知事報酬のカットについても知事選での公約通り、知事給与を3割減額し、退職金も5割削減するという報酬カットを実行した。さらに県職員OBの天下り規制も実行した。


 兵庫県では幹部職員なのだろうが、定年退職後、県の外郭団体に再就職した場合は65歳で雇用を打ち切りにすることになっているそうだ。が、実際には外郭団体では再雇用が続いていたそうだ。これにメスを入れ、65歳以上のOBに退職を迫ったというのである。これが怨みを買い、内部告発に繋がったのではないか、という説もある。ともかく、こうした施策の結果、貯金に相当する県の財政調整基金は100億円を超えたという。