——インフレ抑制法(IRA)に基づくメディケアパートD(院外処方給付)で10品目の薬価直接交渉の結果が明らかになりました。26年1月からこの薬価が適用されます。
髙山 リスト上の薬価からの引き下げ率は平均63%、個別品目では「エリキュース」56%「フォシーガ」68%、「フィアスプ/ノボログ」76%などと、とても下がったように見える。ただ、米国で発表された論文(※)では、パートDの各保険プランで行われている製薬企業からのリベート提供分を除くと、実質引き下げ率はエリキュース11%、フォシーガとフィアスプ/ノボログは0%と推計している。値段面ではあまり安くなっていないのではないかと見ている。
一方、直接交渉対象薬についてはパートDで必ず給付しなければならなくなった。現在は対象薬の給付の事前審査が厳しい、品目によっては患者負担が重いなどといった制限がかかっている。この制限が緩和され、処方件数の増加が見込まれる。つまり、価格の低下を供給面が補うことになる。表面上の薬価引き下げ率だけを見て、製薬企業が主張する「安すぎだ」という指摘は当たらない、というのが私の考えだ。
——米国製薬業界はメディケア&メディケイドサービス庁(CMS)の交渉が乱暴だったと批判しています。
髙山 CMSは交渉の過程で、業界などの意見を踏まえつつ柔軟にルールやガイダンスを修正しており、かなり丁寧に交渉をしたというのが私の印象だ。製薬企業などは「薬価交渉は違憲だ」と訴訟を提起しているが、そのような状況でありながらもスムーズに価格を妥結している。実際、10品目中4品目は製薬企業が示した価格で妥結、1品目は早期妥結、5品目も交渉期限までに価格を受け入れた。