先般、東京地裁は「混合診療禁止の厚生労働省の解釈・運用に法的根拠はない」との判断を示し、国の主張は退けられた。しかし、国は「基本的原則は曲げない」と控訴した。門外漢の薬剤師である筆者には、まさか国が法違反を犯していたとは信じられず、法とは難しく厄介なものだと痛感した。
これを受けて、でもないだろうが規制改革会議は混合診療の原則自由化を掲げて厚労省と協議を進めている。混合診療の論議がまた喧しくなってきた。ここでは、混合診療(本欄6に掲載)を論ずるのではなく、混合診療を語るうえで、現行の「保険外併用療養費制度」を知る必要があろうと考え、取り上げた。
健康保険では、保険が適用されない療養を受けると保険診療分の費用を含めて医療費の全額が自己負担になる。しかし、療養に関わる患者のニーズは多様化するとともに医療技術の進歩も著しい状況にあり、例えば、保険診療に認められていない新治療を受ければ、すべてが自己負担になる。
この矛盾を緩和する目的でつくられたのが「保険外併用療養費制度」(06年10月1日から)である。ややこしい制度の名前の意味は、「保険外の併用療養の中で、例外的に保険診療+自己負担(混合診療)を認める扱いをすることを決めた制度」である。
保険外併用療養費制度で認められている内容には「評価療養」と「選定療養」の2種類がある。
評価療養とはその言葉通り、新しい治療法を将来保険診療に採択するかどうかを評価するために試験的に行われる療養を指す。具体的には次の4項目が決められている。「①先進医療。現在保険診療が認められていない新しい医療技術について、一定の要件(施設基準)を満たした医療機関(主に大病院)において行われるもの。例えば固形がんの粒子線治療、インプラント義歯、人工中耳など現在124種類の素人には難しい先進医療技術が認められている。②医薬品や医療機器の治験に係わる診療。未承認薬の使用はここに含まれる。③承認された医薬品の薬価基準収載前の投与及び承認医療機器の保険適応前の使用。④薬価収載医薬品の適応外使用」である。
選定療養とは特別病室の使用など患者の選定に係わる療養をいう。
選定療養には、「差額ベッドへの入院、予約診療、200床以上の病院に紹介状なしでかかる初診、200床以上の病院の再診、制限回数を越えて受ける診療、180日を越える入院、前歯部に金合金などの材料差額、金属床総義歯、小児う蝕(むし歯)治療後の継続管理」の10項目が決められている。
この制度を使うには「患者の同意」が必要であり、「領収書」の発行が決められている。また、医療機関は取り扱う評価療養や選定療養の内容と費用などを「掲示」することになっている。
このような制度内容を見ると選定療養についてはおよそ理解できるが、評価療養を一般市民が活用しようとしても、その内容、施設などほとんど実際に使用できる状況にない。薬価収載前の一時的使用を除けば、あたかも評価のための患者のボランティア活動を、保険外の併用療養費で認めますよというルールに思えてならない。
かねてから混合診療を認めていない厚労省は混合診療という言葉を使わない。「保険外併用療養費制度」の名も「混合診療費制度」という言葉を使えば国民からも理解され、「混合診療禁止の解禁」などという難しい日本語ではなく、「混合診療の拡充」についてという、やさしいテーマで前向き建設的な議論ができると思うが……。
神原秋男 著
『医薬経済』 2008年1月15日号