シリーズ『くすりになったコーヒー』
癌は体のなかの異物ですから、普通ならば免疫細胞に食べられて死んでしまいます。そこで癌細胞は体の免疫システムの弱点をついてきます。そして食べられることなく増殖し、転移し、増悪して、遂には抗がん剤も効かなくなってしまいます。そうなるために癌細胞が強く求めているのは2つの必需品「栄養素と酸素」です。
●血管を作ろう!
話は一旦それますが、「徳川幕府が江戸の町に最初に作ったのは水路」でした。もちろん物資を輸送するためで、癌も同じです。酸素と栄養素を運ぶ癌専用の水路・血管を作って、癌細胞ご用立ての栄養素と酸素を運びます。癌のために働く新生血管が免疫細胞に攻撃されては元も子もなくなってしまいます。そこで癌が作る血管は正常な細胞でできているのです。こういう騙し合いこそが、癌が怖い存在となる最初のイベントではないでしょうか?
癌が血管新生に失敗すると、それ以上に増殖せず増悪もしません。ただの良性腫瘍のままでいるのです。ですから創薬の立場で見れば、血管新生を阻止する化合物はそれだけで抗癌剤の条件をほぼ満たしているのです。加えて体に安全な化合物であれば、新薬の有力候補に選ばれるでしょう。
●コーヒーオイルに溶けているカフェストールとカウェオールは癌の血管新生を阻止する(詳しくは → こちら)。
この論文は2016年にポルトガル発で発表されました。これに先行した論文は2011年のスペイン発、次いで2012年の韓国発の論文で、世界3ヶ所で別々に研究されたので、きっと正しい内容です。お蔭で「コーヒーを飲む習慣が発癌リスクを減らす」という疫学データの説明にも説得力が加わりました。しかし、飲めば高脂血症と心臓病のリスクを高めるコーヒーオイルですから、癌になったら「飲むべきか、飲まざるべきか」の難しい選択を迫られます。
●カフェストールとカウェオールに血管新生抑制作用があるとしても、コーヒーオイルを飲み続けると心血管系が危なくなる(第214話と第215話も参照)。
普通にドリップ式で淹れたコーヒーを飲んでいれば、ジテルペンはほとんど体に入りません。ですからジテルペンによる高血圧、高脂血症、心血管病の心配はありません。しかしそれでは癌転移のリスクを減らすことはできません。二者択一の壁ができてしまうのです。「どっちの病気で死にたいですか?」などと言ってる場合ではありません。我が身になって考えましょう。
●飲むべきか?飲まざるべきか?それが問題だ。
どちらを選ぶのも自由ですが、もし飲むとしても、焙煎豆のコーヒーオイルを全部飲み切ることはできません。トルココーヒーを滓ごと全部飲み干しても、滓のなかのオイルは消化されずに残ります。それでも吸収された分だけでコレステロールは増えるので、健康には良くないとされています。先ずはこの辺りの技術を工夫して、コーヒーオイルを「飲む必要があるときには飲める」ようにしておくのが良いと思われます。しかも飲むときは美味しいコーヒーとして飲みたいものです。
というわけで、問題提起はされたのですが、解決策は未完成・・・なのでこのお話、続きはまたの機会といたします。
(第281話 完)
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