シリーズ『くすりになったコーヒー』


●耳鳴りがひどい人は、コーヒーを飲んではいけません。


 根拠はないはずなのに、お医者さんに聞いてみますと、何故かほぼ全員が「コーヒーは耳鳴りによくない」とおっしゃるのです。ですからWebのブログを探ってみると、ほとんどの書き手さんが、「コーヒーは悪もの」と決めつけてしまいます。しかも誰もが口を揃えるように「悪の正体はカフェイン」と信じているようです。


「コーヒーやカフェインは本当に耳鳴りに悪いのか?」と疑問を抱いたのは、イギリス・ブリストル大学の耳鼻科のお医者さんたちでした。このグループが小規模ながら臨床試験を行いました。その結果です。


●カフェインもコーヒーもお茶も、どれも耳鳴りとは関係なかった(詳しくは → こちら)。


同じくイギリス・ノルウィッチ大学のお医者さん達は、過去の論文を網羅して調べました。


●カフェインを止めても耳鳴りは治らない・・・むしろカフェインは耳鳴りによいのかも知れない(詳しくは → こちら)。




 論文によれば、好きなコーヒーやお茶を止めて治療に専念しても、治らない耳鳴りは治らない・・・それどころか「コーヒーを飲みたい」というストレスで、逆に悪くなる人もいる。つまり、お茶やコーヒーのカフェインが原因で耳鳴りが悪くなるようなことはないのです。日常の経験から考えてみても、「お茶やコーヒーを飲むと耳鳴りがはじまる」という人に出会ったことはありませんし、聞いたこともありません。


 ではお医者さんは何故「カフェインは耳鳴りに悪い」と言うのでしょうか?その理由とは・・・耳鳴りの特効薬が見当たらないので、少しでも耳鳴りに悪いだろうと思われることはすべて止めるよう、お医者さんは職業柄患者さんを指導してしまうのだとの意見がありました。


●「カフェインは耳鳴りに悪い、止めれば治る」は、お医者さんの願望だった。


 話は少し変わりますが、お医者さんが患者さんの耳鳴りの症状を正確に判断することは難しいのだそうです。耳鳴りの原因は色々ですし、症状も色々なので、患者さんが訴える症状も実に色々なのです。お医者さんにとってまず大切なことは、患者さんの耳鳴りの「客観的な診断」だそうです。まだ未完成ではありますが、そんな検査の可能性について、慶応病院の医師が提案しています。


●軽い耳鳴りの患者さんは、BDNF(第182話)を参照)の血中濃度が高くなっているが、重症患者さんでは変化がない(詳しくは → こちら)。


 耳鳴りとBDNFの関係は以前から指摘されていましたが、症状との関連については初めての論文だそうです。軽症の患者さんだけがBDNF高値を示す理由は解っていませんし、重症になると正常な人と変わらないというのも変な話です。結局は「たまたまじゃないの?」という疑問を払拭できません。


 もう1つの疑問は、コーヒーを飲むと脳神経細胞のBDNFが増えるということです(第182話)を参照)。それでも普通はコーヒーで耳鳴りは起こりません。聴覚神経は末梢神経ですから、カフェインの影響を直ぐには受けないのかも知れません。色々と疑問が湧いてきます。


●うつ病の患者さんは耳鳴りを感じることが多い。


 これは複数の論文で指摘されています。うつ病になるとBDNFの血中濃度が増えてきます。耳鳴りがうつ病の始まりということもあるようです。軽い耳鳴りでいる間に、耳鳴りを治療できれば、より重い病気にならずにすむのかも知れません。ちなみに、コーヒーはうつ状態を改善します(第178話)を参照)。


 どうやら、「耳鳴り/うつ病/コーヒー」の関係は、今後の研究成果に期待する以外になさそうです。


(第196話 完)

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