シリーズ『くすりになったコーヒー』


 八百屋さんにも並んでいる生姜(ショウガ)の文字を、漢方では「ショウキョウ」と読みます。最近は英語の「ジンジャー」も普及しました。厚労省提供の大衆薬検索画面(→ こちら )を覗いてみましょう。


 この画面で「成分名」に「ショウキョウ」と入力しますと実に1197件もの大衆薬商品がヒットし、英語の「ジンジャー」でも2件がヒットします。しかし、主成分の「ジンゲロン」や


「ショウガオール」を入れても何も出ません。つまり、生姜は大衆薬にとって欠かせない(効く!)原料なのに、その有効成分は無視されているのです。


●ジンゲロンは胃液を分泌して消化吸収を助けるとともに、血行を促して身体を温め、冷え症を改善する。


 ですから寒気を感じて風邪を引いたかな?と思ったら、ショウガスープを飲んで早く寝るに越したことはありません。言い伝えによりますと、ネギと一緒に作れば完璧です。ショウガとネギを刻んで鍋で煮るだけの話です。


 ショウキョウが千を超えるくすりに配合されている真の理由は何でしょうか? 今のところ的確な答えはありません。それでも何処かに手掛かりがないものかと探してみました。ヒントは構造式の六角形にありました。バニラにもあるバニロイド構造です(第25話)。


 ジンゲロンは辛味を感じる成分で、コーヒーのフェルラ酸は勿論のこと、前回と前々回の今冶水、正露丸に通じる構造をしています。特に、フェルラ酸とジンゲロンは実によく似ていることがわかります(下図参照)。ただし、味は違っていて、ジンゲロンは辛味を感じますが、フェルラ酸は辛くありません。


 バニラのバニリン、正露丸のグアヤコール(第24話)、今冶水のオイゲノール(第25話)、皆バニロイドと呼ばれますが、唐辛子や生姜のような辛味はありません。どうやら辛味の源は、


●構造式のギザギザが長くなると辛くなる。


●リトマス試験紙が濃い赤色にならない。


●だから、酸性のフェルラ酸は辛くない。


 経験によれば、辛い食べ物は食欲を刺激します。食べ過ぎれば汗をかきますが、冬には身体が温まり、夏には暑さを忘れ爽やか気分にしてくれます。日本人は唐辛子の激辛には弱い体質ですが、生姜の辛味には慣れています。寿司屋へ行ったらガリをたくさん食べて確認しましょう。


 臨床試験ではどうでしょうか? ショウキョウの効き目が確実に出るのは、乾燥状態で10グラム以上を食べたときです。ショウキョウの臨床試験は完璧とは言えませんが、関節炎、リウマチ、捻挫、筋肉痛、喉の痛み、こむら返り、便秘、消化不良、吐き気、高血圧、もの忘れ、発熱など・・・まとめると鎮痛、整腸、血液循環が効き筋のようです。少しずつではありますが、信頼できるデータが増えてきました(詳しくはこちら)。


 成分の薬理学を見てみましょう。生姜には100を超える薬理作用物質が入っているし、加熱や乾燥によっても変化します。ということで、研究の焦点を絞ることが難しいのです。純粋な化学成分を手に入れやすいということで、ジンゲロン(ジンゲロールとも言う)の研究が進んでいます。


☆☆☆ジンゲロンの受容体は身体中の細胞に分布している、唐辛子と同じTRPV1である(詳しくはこちら)。


 この驚くべき事実は、実は最近の話です。誰でも「唐辛子や生姜の辛味は身体のどこで感じますか?」と聞かれたら、「舌です」と簡単に答えるでしょう。でも、それだけでは正解にはなりません。


 さてこのお話にはまだまだ続きがありますので、次回も、その次も忘れずに読んでくださいね!


(第26話 完)



栄養成分研究家 岡希太郎による
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