シリーズ『くすりになったコーヒー』
コーヒーには、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の主タンパク質(MPRO)に結合して、その酵素作用を阻害する成分が入っています。カフェイン、カフェ酸、フェルラ酸、ニコチン酸の、何と4つも入っているのです(詳しくは 第442話 → こちら)。最近になって、クロロゲン酸もMPROに結合するとの論文が発表されました(詳しくは → こちら)。しかし、コーヒーが新型コロナ感染症(COVID-19)の治療に役立つとのデータは今のところありません。
近代中国で辛亥革命を主導した革命家・孫文と縁の深い中山大学で、COVID-19患者の鼻咽頭に生息している細菌を研究して、興味深いデータが発表されました。
●COVID-19患者と健常者の鼻咽頭から採取した検体中の菌種と代謝物を分析した(詳しくは → こちら)。
検体を培養して得られた菌叢には、患者と健常者の明らかな差が確認されました。患者で多い菌と少ない菌をまとめて表1に示します。
患者で少ない菌のうち、●をつけた菌は、後述するクロロゲン酸メチルエステル(CME)を産生することが確認されています(表1の構造式)。また、患者で多い菌のうち、Prevotella histicolaは、日本米(ジャポニカ種)を食べている日本人の子供では非常に少ないことが分かっています。その上、この菌が多い人を選んで、1日に1.5合の日本米を食べる試験を行ったところ、プレボテラ菌数の大幅な減少が確認されました(詳しくは 第418話 → こちら)。
●COVID-19患者と健常者の血液中の代謝物を分析した(詳しくは → こちら)。
表1に●で示した菌が多く見つかった健常者について、血液を採取して代謝物を調べました。次にその結果を、●菌が少なかった患者のデータと比較してみました。すると、●菌の多い健常者の血清に、乳酸、L-プロリン(アミノ酸の1種)、クロロゲン酸メチルエステル(CME:コーヒーなどに多く含まれているクロロゲン酸の代謝物)が有意に多いことが分かったのです。図1の右側に、患者と健常者の血清CMEをプロットしました。健常者のCME値は患者の3倍以上多い値でした。しかし、感染していてもCMEが多い若干名の患者の存在も確認されました。
また、患者と健常者の白血球数を比べてみると、患者の数値が健常者の半分程度に下がっていました(図1左側)。つまり、患者の免疫の働きが健常者よりずっと弱まっていることが分かったのです。
●クロロゲン酸メチル(CME)は、過剰な免疫反応を抑制する(詳しくは → こちら)。
COVID-19の重症化が起こる要因の1つに、転写因子NFkBの亢進が確認されています。この論文では、実験マウスを使って、CMEがNFkBの発現に及ぼす効果が調べられました。その結果、CMEはNFkBだけでなく、COX-2やNLRP3などの炎症反応マーカーが関係している免疫反応をも抑制することが分かったのです。
●CMEの起源は野菜に含まれるポリフェノールのクロロゲン酸である。
CMEがCOVID-19の感染予防や重症化の予防に関わっているならば、植物界に広く分布しているクロロゲン酸を積極的に摂るに越したことはありません。コーヒーはクロロゲン酸源として最も手軽ですが、コーヒーが苦手な人にとっては、他の食材を選ぶことは難しくありません。
サツマイモの皮に近い部分、ジャガイモ、ゴボウなどが主なものですし、果実では今が旬のリンゴに多く含まれています。図2を参考にして、食生活をちょっと考えてみることをお勧めしたいと思います。
(第458話 完)