「身体の中から肌を治すのを助けます。デュピクセント」
「潰瘍性大腸炎とクローン病を抑制する。リンヴォック」
「トレムフィアなら治せます」
どれもOTC薬ではなく、医療用の抗体製剤ばかり。こんなキャッチコピーがテレビCMとして番組の合間にしつこく流れるのだから、長旅で疲れていても飛び起きて見入ってしまう。消費者向け広告(DTC)が認められている数少ない国、米国でのカルチャーショックのひとつだ。
すでに患者が、一般消費財のように自ら治療薬を選ぶ「消費者」として捉えられているようにも見えるが、現在、製薬業界が期待を寄せる「抗肥満薬」の米国市場では、こうした流れがさらに加速するという。
「患者がもっと消費者になる」
米マイアミで10月15〜16日にかけて開かれた国際医薬品卸連盟(IFPW)の総会では、複数の登壇者が口々に、肥満症患者を「消費者」と呼んだ。
IQVIAの予測によると、現在300億ドル(約4兆5000億円)の肥満薬市場は、28年までに500億ドル(約7兆5000億円)〜1000億ドル(約15兆円)にまで成長。開発中の成分も120以上と豊富で、同社のペール・トロイン戦略的パートナー担当副社長は「ゴールドラッシュ」の様相を呈していると強調する。
初年度に1億ドル以上を売り上げる大型品が減るなか、GLP-1受容体阻害剤をはじめとする糖尿病薬や肥満薬は製薬業界の期待の星。「とてもスリムな日本人は別かもしれない」(トロイン氏)としても、米国国内だけで7000万人の患者が眠る巨大市場だ。腎疾患や心血管障害、非アルコール性脂肪肝炎(NASH)、睡眠時無呼吸症候群など、肥満症患者が併発しやすいほかの疾患への効果も見込める。とにかく製薬企業や調査会社の登壇者たちは「爆発的に市場が伸びる」と浮足立った様子を見せる。一方で、会場参加する卸関係者は「消費者主導型」の肥満薬ビジネスへの不安を隠せない。