「こうだったらいいいな」を実現
このように次々と最先端技術を駆使して患者サポートのための技術を実現していく長谷井氏に、活動に対する思いを聞いた。
長谷井嬢氏 岡山大学学術研究院医歯薬学域 医療情報化診療支援技術開発講座教授
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——ひとりでさまざまな技術を打ち出されていますが、普段はどのように研究されているのですか。
長谷井 臨床時代に手術をしながら、「この手術は他の医師でもできる」と思うことがあり、「自分にしかできないこと」をやりたいと以前から考えていました。現在所属している講座は、経済産業省の補助金を得て、AI技術を持つ企業と協働で設立されました。所属は私ひとりで研究に専念しており、自由にやりたいことを進められています。
——ひとりだと開発したサービスを知ってもらうのは難しくないですか。
長谷井 自分のしたいことだけをしていては賛同を得られませんので、基本的に病院や患者さんのためになることを心がけています。院内3Dマップやベネッセとの連携などは、私の研究に直接つながるわけではありませんが、病院や患者さんへの貢献として行っています。その過程で、技術への理解に向かえばと思っています。
——AIやメタバース空間開発などの先端技術は、どのように学ばれたのですか。
長谷井 21年からAIを活用して骨腫瘍の診断精度を向上させる研究を行っていたため、AIについて学ぶ機会がありました。メタバースはプロジェクトを思いついてから独学で学びました。外部のエンジニアと協働するためには、技術をある程度理解していないと連携が難しいため、基本的なことは自分で学びます。ただ、すべてを深く学ぼうとすると時間がかかりすぎるので、概要を把握する程度にとどめています。
——医師であり、具体的な技術開発も行う人は少ないです。
長谷井 今の時代は、医療に先端技術を活用していくことが必要ですが、双方にどのようなことがどこまでできるのか、お互いに歩み寄ったり理解したりすることが難しいです。医療者と技術者の共通言語を持てるような立場になれたら、と思っています。
——メタバース空間と医療の関係はどうお考えですか。
長谷井 コロナ禍にオンラインゲームで遊んでいた子どもたちにとって、メタバースは自然なコミュニケーション手段になっています。メタバースだから話せる、という人もいます。そういう世代にとって、将来的には仮想空間で医療を受けることが自然になるかもしれません。医療が最先端技術を活用して何ができるのか、今のうちからいろいろと考えておくことが重要だと感じています。
——今後の展望は。
長谷井 医療現場で困っていることや「こうだったらいいな」と思うことにデジタル技術を組み合わせて、実現したいと考えています。ひとつの医療機関だけで終わらせず、他の医療機関にも展開できるかたちにしていきたいと思っています。