事故件数は非開示


 調剤過誤の原因はお粗末なものだった。薬剤師が母親の薬を分包機で個包装する際、分包機に残っていた前の患者の糖尿病薬が混入。28包のうち7包で、処方上の2.5錠より2錠ほど多い、4.5錠が包装されてしまった。しかも、他の薬剤師も確認を怠り、このミスを見落とした。原告は、薬剤師は「医療事務がピッキングした薬剤を分包機に漫然とセットしてボタンを押しただけと言わざるを得ない」と批判した。薬剤師の質の低下が叫ばれる昨今だが、とても薬のプロとは思えない仕事だ。


 高井戸店の薬剤師は3人だったが、調剤当日は管理薬剤師がおらず実質2人の薬剤師しかいなかった。1人は服薬指導や薬歴管理に追われ、調剤室は1人だけだったとすれば、人員不足がミスを招いた可能性もある。いずれにしろ調剤過誤そのものはスギ薬局も認めており、粗雑だったのは明らかだ。


 スギ薬局は刑事告訴され、警察の捜査も受けた。スギHDは本誌に「調剤過誤があったのは事実。因果関係については、警察の捜査を待っている状態。22年3月22日に捜査が開始された。店舗の実況見分や関係者の事情聴取が行われたが、警察の捜査に関わるため詳細は控える」と回答。また、高井戸店の薬剤師3人に関しては「現在、調剤業務には従事していない。社内の懲罰規定に沿って対応した」と明かした。


 高井戸店での人員不足の疑いについては「法定人員を満たしており、当日の業務量も通常の対応許容量に収まる範囲で運営していた」と否定した。スギ薬局は8月時点で調剤を1317店で展開。薬剤師が足りているのか気になるが、「薬剤師登録は定員を満たしており、店舗来店客数の変化などを踏まえて定期的に人員体制を見直している」とした。実態はともかく法律上は適正ということらしい。


 スギ薬局は「調剤過誤があった場合は現場責任者である部長・エリアマネージャーが店舗で発生原因を調査・報告書を作成し、その内容をもとに会社として再発防止策を行っている。今回の事案でも同様に報告書を作成した」と説明する。どうやら今回の事案は、グループ内で発生している調剤過誤の氷山の一角に過ぎないように思えてくる。本誌は過去3年間の調剤過誤の「件数」、その後に「入院」「死亡」した件数、また死亡した場合の因果関係の有無を質問。しかし、スギ薬局は「患者の情報に関わるので回答は控える。なお、死亡された事例はない」と開示を拒んだ。今回の事案は死亡例に含まないのか首をかしげてしまう。


 穿った見方もしれないが、調査を担当する部長・エリアマネージャーの仕事というのは、死亡や健康被害との因果関係を避けつつ遺族を宥めるのがグループ内での役割なのかもしれない。本当は死亡例がほかにもあるのではないか。少なくとも社会的インフラとしてこれほど巨大となったドラッグストアなら、過誤の件数を開示するのは当然だろう。


 スギ薬局は今回の事案についても「警察の捜査を待っている状態だったため、公表を控えた」というが、言い訳に過ぎない。調剤過誤について、ドラッグストアの実態はあまりにも不透明だ。


スギ薬局高井戸店