何がわかるかを探索
竹井氏には、要素技術をいくら積み上げたところで、デバイスとして組み上げて社会実装まで持っていかないと、最終的には世界に負けてしまうとの危機感がある。それに関してアカデミアにできることは限られており、早く一緒に取り組んでくれる企業を見つけたいとの気持ちは強い。大学発新産業創出プログラム(START)にも手を挙げ、19年度の「多種フレキシブルセンサアレイシステムの事業化検証」と21年度の「熱中症早期検知デバイスのPOC創出に向けたシステム開発加速とバイタルデータ実計測」で2回、採択されている。
ただ、冒頭に書いたように、今回のシステムで何がわかるのか、竹井氏たちにも定かでない面がある。また、柔らかいセンサの宿命として必然的にひずみを生じ、得られる値の誤差が大きい。企業からすると、まだ投資しづらいようだ。
しかし、恒常性の破綻が疾病であり、恒常性の範囲には最初から個人差があるという所まで立ち返ってみると、正確だけれど不連続なバイタルデータより、少々不正確でも連続なデータのほうが健康状態把握に役立つ可能性は十分に考えられる。
そこで、賛同してくれる医師にシステムを配り、測りたいものを測ってもらって、有用な指標を見つけ、機械学習と組み合わせてスマホアプリに仕立てようとの方針で、実際に論文の共著者にも入っている順天堂大学医学部救急・災害医学講座の渡邉心先任准教授など複数の医師と共同研究を開始している。
すでに検知できている項目だけでも、療養型病床や介護施設など、数少ないスタッフの巡回頻度を減らせるメリットを感じるユーザーはありそうだ。加えて、もし今まで気づかれていなかった指標が見つかってくれば、医療自体の形を大きく変えるかもしれない。
ロハスメディア 川口恭