自動化で世界を変える
実は抗体DNAを選抜する手法として近年、微小液滴(ドロップレット)中にB細胞とDNAバーコード付き抗原を混合、抗原抗体反応をさせた後に産物(抗原-抗体複合体)を分離して、その抗体可変部のDNA配列とDNAバーコードをNGSで同時に読み取る「ドロップレット型」スクリーニング法が、ケタ違いに大量の細胞を一気に処理できる技術として世界の注目を集めるようになっている。しかし、この手法で使われるB細胞は使い捨てなので、再実験したり抗原を変えて実験したりすることができない。
この点で渡辺氏の手法には強みがある。人力で作業している限り処理できる細胞数が限られるのでドロップレット型以上の評価を得るのは難しいかもしれないけれど、ロボットで自動化すれば、いろいろな疾患に対して有用なモノクローナル抗体を迅速かつ大量に得ることが可能となり、世界中で使われる手法になるのでないかと渡辺氏は考えている。現段階では特許を出願していない。
なお、今回報告した手法で用いたのはマウス型遺伝子が乗ったプラスミドだが、すでにヒト型プラスミドも開発済みという。
例えば新興感染症が発生したとして、これまでならモノクローナル抗体を使った診断キットや治療薬が出てくるのを次のシーズンまで待たなければならなかったところ、そのシーズン中に間に合わせることができるかもしれない。
また、ワクチンで得られる中和抗体の活性がどの程度のものなのか、客観的に比較するシステムへ応用することにも共同研究者と取り組もうと考えている。
生命科学の最近のトレンドは、DNA・RNA・タンパク質・代謝産物など多様な生体分子の情報を網羅的に扱う「オミクス解析」とシングルセル解析だ。そしてNGSは、mRNAなどの転写産物や生成されたタンパク質、細胞の形態、薬剤処理後の時系列変化と薬剤濃度に依存した変化なども同時に測るマルチモーダル解析を行えるようになってきた。そうした機器をいち早く使いこなすなど、所内の研究者たちが抱える課題解決を支援する日々の活動にも、やりがいを感じているという。
ロハスメディア 川口恭