システム上で文書も送信
Dr2GOの地域医療連携システムの基本的な機能は3つで、1つ目は転院先病院のリストアップ機能だ。トップ画面で転院予定の患者情報を開くと、電子カルテに紐づいた患者の情報とともに、転院先候補の病院が一覧で表示される。転院先を自動提案する機能もあるが、同院の場合はソーシャルワーカーが候補病院をあらかじめ想定したうえで使うことが多い。
2つ目は、転院候補先とのチャット機能だ。患者や家族の希望、またソーシャルワーカーの想定などから候補病院を選択し、チャットを開始できるようになっている。チャットは一般的な形式で、ソーシャルワーカーは電話で伝えるような患者の入院背景や家族の状況などを入力、相手からの返信を待つ。
また、患者の病歴や家族の情報など全体的な情報を集めたフェイスシートをDr2GO内で作成できる。その際、電子カルテ上にある情報は自動で入力され、それ以外の情報はソーシャルワーカーが補完して入力する。同院と候補病院とで、フェイスシートを見ながらチャットのやり取りをすることができる。
3つ目は文書ファイル送信機能だ。診療情報提供書などの書類を添付して送信できるため、これまでのように電子カルテから紙に出力してファクス送信したり、手元に保管しておく手間が省け、効率的な調整が可能になる。
Dr2GOの地域医療連携システムを使う実証実験は、22年4月に開始した。まずは転院のやり取りが頻繁にある近隣1病院と連携をスタート、8〜9月にかけて、さらに回復期リハビリテーション病棟や地域包括ケア病棟を持つ6つの病院へと連携先を拡大した。
元々業務でパソコンを使用していたり、スマートフォンのチャットツールに慣れていることもあり、ソーシャルワーカーはDr2GOの使用にすぐ慣れたという。総合相談・地域医療・入退院支援センター医療福祉相談グループ室長の曽我比呂子氏は、「使い始めたときは、皆が早く帰れるようになったという肌感覚がありました」と語る。Dr2GOは電話受付時間外でもチャットを送信できるため、必要なときにすぐに連絡を送ることが可能だ。「電話の場合、相手が不在だと対応したスタッフがメモを取る時間と手間がかかりますが、それを省略できるのが大きいです。自席に戻ってメッセージを確認すれば、すでに先方からの返事が届いています。これがすっかり定着しています」と、曽我氏は電話による業務の中断や不便さが大幅に減少した効果を感じている。
曽我比呂子氏
(総合相談・地域医療・入退院支援センター医療福祉相談グループ室長)
さらに、Dr2GOのチャット機能は同じ内容を複数の病院に一斉送信できるため、候補となる病院に1度に受け入れ可否を問い合わせることが可能になり、業務の効率が一層向上した。実証実験が終了した後もDr2GOは引き続き使用されており、細かいシステムの改善を進めている。
Dr2GOは専用のソフトウェアやアプリをインストールする必要がなく、ウェブ上で使用できるため、連携先病院への導入はスムーズに進んだ。先述の電子カルテと連動した地域医療連携システム「Kchart」で使用している専用回線でも使えるようにしたことも、導入の後押しになった。
連携先の病院からも、「認識の齟齬が減り、電話による記録ミスも減少した」などと、概ね好評だ。
現在では18病院がDr2GOの地域医療連携システムに参加している(24年11月時点)。最初は同院からの働きかけで連携先を増やしてきたが、最近では連携先病院から参加を希望する連絡が入ったり、学会などで評判を聞いた遠方の病院からの問い合わせも増えている。
「医療にIT化が必要だということは理解していましたが、それが自分たちの業務にどう関わるのか、以前はイメージが湧いていませんでした」と話す曽我氏。しかし、Dr2GOの導入は予想以上にスムーズに進んだという。かつて地域内で転退院調整システムが話題になったときは、その仕組みがまるで患者を“オークション”にかけているように感じられ、強い抵抗を受けた経験があったという。「今回は、患者さんやご家族の希望を優先しながら転院先を選べるシステムとして、一緒に仕組みを作り上げていけたのが良かったと思います」と述べる。
さらに曽我氏は「ソーシャルワーカーは転退院調整だけでなく、患者さんやご家族の話を聞き、相談に乗ることが本来の仕事です。今回のDXによってその本来の業務を行えるようになりつつあると感じています」。先端技術に任せられることを任せ、ソーシャルワーカーは人にしかできない対人援助に集中できる環境が整いつつある。
同院は今年6月から、救命救急センターで受け入れた患者を即日転院させる新しい仕組みを導入した。同院は3次救急病院として年間約1万件の救急搬送を受け入れ、救命救急センターの受診患者数は年間約5万3000人(23年度)。日々さまざまな患者を受け入れているが、誤嚥性肺炎や尿路感染など、他院でも診療可能な状態の患者も少なくない。これまでは、救命救急センターで受け入れた患者は同院に入院し、後日必要に応じて転院させていたが、病床の逼迫が問題になっていた。このため、他院で入院可能な患者には即日転院を促す流れに変更した。
具体的には、土日に受け入れた場合は月曜に、平日夜間に受け入れた場合は翌日に転院する仕組みだ。これを実現するには、迅速な転院先の確保と調整が必要であり、Dr2GOがその役割を果たしている。ソーシャルワーカーは、土日や夜間に救命救急センターで受け入れた患者の転院調整を、翌稼働日の朝に一斉に開始する。Dr2GOの一斉送信機能を活用することで、複数の病院に同時に問い合わせができ、迅速な調整が可能となった。曽我氏は、「Dr2GOがなければ、即日転院の実現は不可能だったと思います」と述べた。
高齢化が進むなかで、3次救急病院としての役割を果たし、必要な患者に必要な医療を届けるためには、事務的業務の効率化が不可欠だ。これは地域の医療機能の明確化や分担のために、DXが活かされた例といえるだろう。
Dr2GOの地域医療連携システムは、倉敷中央病院の実証実験が成功したことにより、3次救急をトップとした医療連携が敷かれている地域での使用が成功したと考えられている。SCSKの担当者は「今後は、都市部など複雑な医療連携が必要な地域への横展開を考えている」と話す。また、外来から転院する患者へのDr2GOの活用や、将来的にはケアマネジャーとの連携など、医療と介護の連携も視野に入っているという。