心臓血管医学、糖尿尿と肥満症の最新研究
米国心臓協会学術集会が11月16〜18日、シカゴで開かれた。心臓血管医学の画期的な研究と進捗状況について発表があった。
バージニア大学チームは、減量・糖尿病治療薬「チルゼパチド」が心不全、心臓ポンプ機能維持、肥満患者の死亡や心不全悪化のリスクを減少させることを確認したと報告した。米イーライリリーが販売する同薬の国際試験「SUMMIT」は、拡張期心不全でBMI30以上の患者731人が無作為に割り付けられ、チルゼパチドかプラセボの注射を受けた。その後、研究者らは患者を中央値で2年間追跡調査した。その間、プラセボ投与群で56人が死亡または心不全の増悪を示したのに対し、チルゼパチド投与群では36人にとどまった。さらにチルゼパチド投与群は体重が減少しやすく、平均で体重の11.6%が減少したという。
この試験でチルゼパチドは拡張期心不全の管理、死亡の減少、入院の予防、そして一般的に患者の健康とQOLに大きな利益をもたらすことが明らかになった。被験者は6分間で歩ける距離が改善し、また重篤な心血管系イベントのリスクを予測するために使用される生物学的指標も大幅に改善した。
さらに研究チームは、チルゼバチドの投与を受けた患者の心臓構造と機能にどのような影響を与えるかを調べたMRIのサブ研究も実施。左室質量(心臓の重さ)と周囲の脂肪組織の量の両方において有益な減少を認めたと明らかにした。左室質量の減少は体重の減少と相関し、左室容積の減少とも相関した。
ロンドン大学ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン(UCL)とロイヤルフリー病院は、稀な心臓病患者の遺伝子を編集する新しいタイプの治療法が安全で効果的であることを確認したと発表した。ネキシグラン・ジクルメラン(nex-z)と命名されたこの新薬は、米インテリア・セラピューティクスが開発中だ。第Ⅰ相試験の結果、心不全の症状を引き起こすトランスサイレチン・アミロイドーシス(ATTR)患者に希望をもたらすものとなった。ノーベル賞を受賞したCRISPR-Cas9遺伝子編集技術を用いたこの新しい治療法は、トランスサイレチンの産生に関与する肝臓の遺伝子を不活性化することによって機能し、トランスサイレチンの産生量がごく少量となる。
治験で36人の患者に1回限りの点滴静注で投与した。その結果、この治療法は短中期にかけて安全であることが示され、治療効果の初期エビデンスも有望なものだった。この治療を受けた患者の多くは、試験開始時には心不全の症状が進行していたが、12ヵ月後の追跡調査では大半の患者が症状の悪化が止まったか改善したと報告した。現在研究チームは700人以上の患者を対象とした国際的な第Ⅲ相試験を行っており、その結果によってこの治療法が有効かどうかが確定される。