■3極で承認された15品目から
3極承認薬について、最初に承認した地域を見ると、米国が11品目、日本が4品目(ベオーバ、ミチーガ、アレモ、ビロイ)で、欧州はゼロだった。
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ECによる「販売承認」後のヒト用医薬品(Medicines for human use)は、EMAの専用サイトで検索できる。検索結果でまず表示される「Overview」は一般市民でも理解可能であり、「用法・用量」「作用機序」「メリット」と「リスク」、「安全かつ有効な使用のための対策」とともに、「EUで承認された理由」の項目があることが特徴だ。また、同じ画面に、専門家向けの「製品情報」「評価履歴」から「(EMA内での)関連ニュース」へのリンクまで一括表示される。「Overview」と「製品情報」は英語以外にEU加盟国の公用語版もある。
以下にまず、24年末の時点で、欧・米・日全てで承認されたNMEsのうち、日本企業関連製品およびEMAが「公衆衛生に重要な貢献をした薬剤(EMA注目薬)」として挙げた品目などを紹介する〈表1〉。
※各剤について【一般名/販売名(日本で承認済みの品目はカタカナ表記), 企業】の順に記載。一般名のカタカナ表記はKEGG DRUGデータベースに拠る。〔 〕内は利用した特別措置その他の参考情報。各薬剤の説明は、一般市民の理解も考慮に入れたEMAの記述を紹介する。
【ゾルベツキシマブ/Vyloy,アステラス/ビロイ,同左】〔オーファン指定(10年11月)〕
説明:胃または胃食道接合部腺癌(胃または胃と食道の移行部に発生する癌の一種)の成人の治療に使用される、がんの薬。がんが局所的に進行して(近くに広がり)手術で除去できない場合、または転移性の(体の他の部分に広がった)場合に、化学療法と組み合わせて使用される。
Vyloyは、がん細胞が HER2 陰性、かつClaudin(CLDN)18.2 陽性の場合、つまり、がん細胞の表面にHER2 受容体(ターゲット)が大量に存在せず、CLDN18.2 タンパク質が大量に存在する場合に使用できる。
承認理由:Vyloy は、標準的な化学療法と併用することで、進行した胃または胃食道接合部腺がんの患者の病気の悪化を遅らせ、生存期間を延ばすことが示された。標準的な化学療法に Vyloy を追加することで生じる副作用は許容範囲内と見なされた。副作用は主に胃腸症状(吐き気や嘔吐など)であり、ほとんどが治療開始時に発生した。そのため、EMAはVyloy の利点がリスクを上回ると判断し、EU での使用を承認した。
※以下、「利点がリスクを上回ると判断し、EUでの使用を承認した」旨は各薬剤とも共通のため省略。
【フルキンチニブ/Fruzaqla,武田/フリュザクラ,同左】
説明:Fruzaqlaは、転移性大腸がん(体の他の部位に転移した大腸および直腸のがん)の成人の治療に使用される、がんの薬。既に標準治療を受けており、trifluridine‑tipiracilまたはregorafenib(大腸がんの治療に使用される他の薬剤)による治療で病状が悪化した人、またはこれらの薬剤のいずれも耐えられない人に使用される。
承認理由:承認当時、治療に反応しなくなった転移性大腸がん患者に対する治療選択肢は非常に限られていたが、研究により、Fruzaqlaはこれらの患者の生存期間を延ばすことが示された。副作用は、同じように作用する他の薬の副作用と同様であり、許容範囲内と見なされた。
【レカネマブ/Leqembi,エーザイ/レケンビ,同左・販売提携バイオジェン・ジャパン】〔承認勧告段階/EMA注目薬〕
説明:Leqembi は、アポリポタンパク質E(ApoE ε4)のコピーを1つだけ持つか、全く持たない患者のアルツハイマー病による軽度認知障害(記憶および思考の問題)または軽度認知症(初期のアルツハイマー病)との臨床診断を受けた成人患者の治療に用いる。
25年1月28日付の更新情報:ECは意思決定プロセスの一環として、CHMPに対し、24年11月のCHMPの肯定的意見採択(承認勧告)後に入手可能となったLeqembiの安全性に関する情報を検討した上で、❶承認勧告のアップデートが必要か、❷リスク最小化措置の文言が明確で、適切かつ確実に実施する上で十分か、を検討するよう要請。CHMPは検討の上、2月の総会後に回答を提供する予定。
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以下3剤は、発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)治療薬である。
【クロバリマブ/Piasky,ロシュ/ピアスカイ,中外】〔中外が独自のリサイクリング抗体技術を用いて創製〕
説明:Piaskyは、PNHの成人および、12歳以上・体重40kg以上の小児の治療薬。
PNHは、過剰な溶血(赤血球の破壊)により貧血(体内に酸素を運ぶ赤血球中のタンパク質であるヘモグロビンの濃度が低下)、血栓症(血管内の血栓)、汎血球減少症(血球濃度低下)および(尿中への大量のヘモグロビンが放出による)暗色尿が生じる病気。
Piaskyは、溶血および高疾患活動性に伴う症状がある患者、および補体C5阻害薬(PNHの治療に使用される別の薬)による治療で少なくとも6ヵ月間安定している患者に使用される。
承認理由:PNH 患者は症状に対する治療を生涯にわたって受ける必要がある。Piaskyは治療開始から最初の4週間は週1回、以降は4週間に1回の点滴静注で済み、自宅で自己注射する治療選択肢もある。利点として、溶血の制御と輸血の必要性の低減という点では他の C5 阻害薬と同等であることが示された。リスクを最小限に抑えるための対策を考慮すると、安全性プロファイルは管理可能と考えられる。他の C5 阻害薬からPiaskyに切り替える患者の場合、3型免疫複合体反応が予測され、考慮すべきリスクである。
【ダニコパン/Voydeya,アレクシオン/ボイデヤ,同左】〔オーファン/EMA注目薬〕
説明:Voydeyaは、成人のPNHの治療薬(NH患者の残存溶血性貧血に対する初の経口治療薬)。※続くPNHの説明はPiaskyと共通。
Voydeyaは、ravulizumabまたはeculizumab(他のPNH薬)による治療にもかかわらず貧血が続く患者に、これらの治療に加えて使用される。
承認理由:Voydeyaをravulizumabまたはeculizumabと併用すると、治療開始後のヘモグロビン値が上昇し、PNH 患者の貧血を軽減する効果があることが示された。Voydeyaの服用患者では副作用の発生が増加するものの重篤度は増さず、安全性は管理可能と考えられる。
【イプタコパン/Fabhalta,ノバルティス/ファビハルタ,同左】〔オーファン指定(20年6月)/PRIME/EMA注目薬〕
説明:Fabhaltaは、PNHの成人の溶血性貧血の治療に使用される薬。※続くPNHの説明はPiaskyと共通。
承認理由:Fabhaltaは、PNH 患者のヘモグロビン値を上昇させ、輸血の必要性を減らす効果があることが示されている。最も一般的な副作用※※は患者にとって不都合(inconvenient)ではあるものの、リスクをもたらすことはないと考えられる。
※※頻度が高い(10人に1人以上に現れ得る)副作用は、上気道(鼻と喉)感染症、頭痛、下痢。
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【トフェルセン/Qalsody,バイオジェン/クアルソディ,バイオジェン・ジャパン】〔オーファン指定(16年8月)/EMA注目薬/例外的状況下の承認/核酸医薬〕
説明:Qalsodyは、スーパーオキシドジスムターゼ1(SOD-1)と呼ばれる酵素を生成する遺伝子の変異(欠陥)によって引き起こされる筋萎縮性側索硬化症(ALS)の一種を患う成人の治療薬。
ALSは進行性の神経系疾患で、随意運動を制御する脳と脊髄の神経細胞が徐々に劣化し、筋肉の機能喪失や麻痺を引き起こす。SOD-1遺伝子の変異によって引き起こされるALSは患者の約2%を占めている。
承認理由:承認当時、ALS 患者の治療選択肢は非常に限られていた。SOD-1遺伝子の変異が関わるALS患者を対象とした、ある研究の主な結果では28 週間の治療後も薬の効果は示されなかったが、他の測定結果では期待される作用が確認され、Qalsody が病気の進行を遅らせる可能性があることが示された。安全性について、Qalsody は脊髄の炎症など神経系に関係する深刻な副作用を引き起こす可能性があるが、適切な治療によって管理できる。