欧・日で承認された6品目から


 欧・日での承認薬は、1品目(アウィクリ)のみ欧州が先に承認され、他の5品目は日本先行だった〈表3〉

 

【rADAMST S13/Adzynma,武田/アジンマ,同左】〔オーファン指定(08年3月)/例外的状況下の承認〕

説明:Adzynmaは、ADAMTS13遺伝子の変異(変化)によって引き起こされる遺伝性疾患である先天性血栓性血小板減少性紫斑病(cTTP)の小児および成人の治療に使用される薬。

この疾患の患者は、全身の小血管に血栓が形成され急性発作を起こす。血栓は臓器への血流を妨げ、損傷を引き起こす可能性がある。凝固が増加すると血液中の血小板が不足し(血小板減少症)、出血のリスクが高まる。患者はまた、皮下に紫色の斑点として現れる小さな出血を起こす(紫斑)。cTTPはまた、体が赤血球を生成するよりも速く赤血球を分解し、赤血球レベルを低下させる(細小血管障害性溶血性貧血)。症状には、疲労、衰弱、息切れなどがある。

承認理由:承認当時、cTTP 患者に満足のいく治療法はなかった。Adzynma は、欠損している ADAMTS13 を、人工的に作られたこの酵素の類似バージョンで置き換えることを目指している。研究データでは、この薬が急性TTP 発作の予防に有効であるという十分な証拠は得られていないが、実験室内での基礎研究、薬が体内でどのように作用するかについての知識、および Adzynma を服用している患者の cTTP 症状の軽減を示すデータから得られる情報があり、これらはすべて、治療が効果的である可能性を示している。Adzynma の副作用は許容範囲内であると考えられた。

承認後のアクション:Adzynma は「例外的な状況」下で承認された。これは、cTTP 患者における急性TTP イベントの数が非常に少ないため、Adzynma に関する完全な情報を入手できなかったためである。企業は Adzynma について、さらなるデータおよびAdzynma の安全性と有効性に関する 3つの研究の完全な結果を提出する必要がある。当局は毎年、入手可能になった新しい情報を検討する。

 

【エフアネソクトコグアルファ/Altuvoct, Sobi/オルツビーオ,サノフィ】〔オーファン指定(19年6月)/PRIME〕

説明:Altuvoctは、血友病 A の成人および小児の出血を予防・治療するために使用される薬。

血友病 A は、血液凝固を助けるタンパク質である第 VIII 因子の欠乏によって引き起こされる遺伝性の出血障害。

承認理由:Altuvoct は、血友病 A の成人および小児の出血を予防することが示されている。

承認当時、承認されているほとんどの第 VIII 因子予防治療では、2~4日ごとに注射する必要があった。Altuvoct は週1回投与のため、患者にとって利便性が高く、治療継続に役立つ可能性がある。

Altuvoct による“オンデマンド治療”は出血エピソードの治療に有効で、そのほとんどは1回の注射で治まる。Altuvoct は、手術を受ける患者の出血予防にも有効である。

副作用は、他の第 VIII 因子医薬品の副作用と同様で、管理可能と考えられている。第 VIII 因子の作用機序から、血栓塞栓症(血管内での血栓の形成)のリスクは低いと考えられる。Altuvoct を販売している会社は、このリスクについてさらに調査する予定。

 

欧州のみで承認された6品目から


 欧州のみで承認された6品目中5品目が抗体医薬だった〈表4〉

 

【セルプルリマブ/HetroniflyHenlius〔オーファン指定(22年12月)/Henliusは上海に本社を置く中国系の企業〕

説明:Hetroniflyは、肺内で広範囲に増殖した、または体の他の部位に転移した小細胞肺がん(SCLC)すなわち進展期 SCLC(ES-SCLC)で、これまで治療を受けていない成人の患者に使用される、がんの薬。Carboplatinおよびetoposide(化学療法薬)と併用して投与される。

承認理由:承認当時、長期予後が悪いES-SCLCの生存期間を延長する追加治療が必要とされていた。主要研究の患者がEUでHetroniflyによる治療を受ける患者をどの程度代表しているかについては不確実性があるものの、この薬は、以前に治療を受けたことのないES-SCLCの成人に化学療法と併用した場合、生存期間を延長する効果があることが示された。

安全性プロファイルは、同じクラスの他のがんの治療と同様。免疫系の活性に関連する副作用の一部は重篤になる可能性があるものの、管理可能と考えられている。

 

【ビロベリマブ/Gohibic, InflaRx〔例外的状況下での承認/EMA注目薬〕

説明:Gohibicは、SARS-CoV-2(COVID-19を引き起こすウイルス)によって引き起こされる急性呼吸窮迫症候群(ARDS)の治療に使用される薬。

ARDSは、肺の腫れにより炎症が起こり、肺胞に水分がたまり、重度の呼吸困難を引き起こす。

Gohibicは、コルチコステロイド(炎症を抑える薬)と〔体外式膜型人工肺(ECMO、肺と心臓が正常に機能していない人を助ける生命維持装置)の有無にかかわらず〕機械的人工呼吸器による治療(機械による呼吸補助)を受けている成人に使用される。

承認理由:主要研究では、Gohibicを投与された患者の方がプラセボを投与された患者より死亡率が低かったものの、この差は統計的に有意ではなかった。しかし、追加の分析と裏付けデータから、GohibicがSARS CoV-2感染によるARDS患者に有益である可能性が十分あることが示唆されている。また、安全性プロファイルは、治療選択肢が限られている重篤な患者集団では許容できるものと考えられる。

承認後のアクション:「例外的状況下での承認」となったのは、承認時点ではCOVID-19パンデミックが下降局面にあったことから、症例が少なく、Gohibicに関する完全な情報を得ることができなかったためである。

この薬を販売する企業は、COVID-19やその他のウイルス性および細菌性肺感染症によって引き起こされる中等度から重度のARDS患者を対象とした追加研究の結果を提出するとともに、Gohibicの有効性と安全性に関する新しい情報についても毎年更新情報を提供する必要がある。


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 EMAが販売承認または承認勧告を行ったNMEsはこれまでの記事で取り上げた日本や米国(FDA)の承認薬との重複も多いため、今回は「一般市民向けの新薬説明」の具体例を紹介した。各薬剤のEUでの承認理由を示すにあたり、利点とリスクに必ず触れており、判断や納得の材料になりそうだ。


 2024年の総括レポートでFDAは、INNOVATION(革新)、PREDICTABILITY(予見性)、ACCESS(新薬の利用可能性)をキーワードにしていた。


 一方、EMAの2023年報でExecutive DirectorのEmer Cooke氏が掲げたのは、Cancer medicines(がんの薬)、Data-driven medicine regulation(データに基づく医薬品規制)、Transparency(透明性)、Communication(コミュニケーション)だった。FDAが一国の政府機関であるのに対し、EMAは政府間組織(IGO)であるため、より透明性(情報公開)やコミュニケーション(情報発信)に力を入れている印象を受けた。



2025年2月10日現在の情報に基づき作成

同じNMEs薬剤が国内承認されている場合でも効能・効果、用法・用量等は必ずしも同じでないため、必ず医療用医薬品添付文書等を確認のこと

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本島玲子(もとじまれいこ)

「自分の常識は他人の非常識(かもしれない)」を肝に銘じ、ムズカシイ専門分野の内容を整理して伝えることを旨とする。

医学・医療ライター、編集者。薬剤師、管理栄養士、臨床検査技師。