その動向に医療界が注目する
証拠に小説「悪魔の飽食」
24年12月25日にMeijiが提訴したこの裁判。訴状によると原口氏がSNSの「X」や動画サイト「YouTube」、書籍で、同社を「731部隊」と論評し、コスタイベを「生物兵器」などと述べて社会的評価を著しく低下させたと指摘。不特定多数が同社に大量の迷惑電話をかけたり、コスタイベの売上げが減少したりし、甚大な影響が生じたとしている。例えば昨年10月1日に新型コロナワクチンの定期接種がスタートしたときには、原口氏がXで「今日からコスタイベ定期接種。多くの専門家が危険性を指摘しているのに強行する自公政権にSTOP ♯レプリコン」などと題して配信したという。
コスタイベは「次世代mRNAワクチン」とされる新タイプの製品で、世界に先駆けて日本で23年11月に承認された。遺伝情報(mRNA)に自己複製酵素を組み込むことで、抗原たんぱく質の生成を持続的に行う。この「自己増幅」により、従来のmRNAワクチンに比べ、より持続的な効果を発揮できるのが特長だ。複製を意味する分子生物の専門用語「レプリコン」のワクチンとも呼ばれる。ただ、体内で自己増殖するmRNAの影響が呼吸から未接種者にも伝播するなど、発売当初からさまざまな「デマ」が飛び交い、反ワクチン運動のターゲットになった。
Meijiは、コスタイベに対する反ワクチン運動で大きな影響を及ぼしたのが原口氏だと見ている。訴状では原口氏について「総務大臣の経験があり、衆議院議員を10期連続で務めており、多大な社会的影響力を持つ現職の衆議院議員」と記載。Xのフォロワー数は約37.6万人で、YouTube登録者が約14.2万人など延べ84万人以上のフォロワーがいると試算。延べ173万回の表示があり、多くの人が名誉毀損の発言を耳にし、さらに拡散されて毀損され続けているという。
Meijiは原口氏の発言を4類型に分けて問題視した。1点目が、731部隊発言について。原口氏は、同社がコスタイベを日本で製造販売することは731部隊と同様の行為をしていると海外から評価されているという事実を摘示し、「その前後の文脈を踏まえる」と、その趣旨は同社が「731部隊の行為と同様であると論評するもの」と主張した。731部隊は戦前の旧関東軍・防疫給水部のことで、捕虜に対する細菌実験・人体実験を繰り返したことで知られる。Meijiは、同部隊を描いた小説家の森村誠一氏の著書『悪魔の飽食』を証拠に提出し、同部隊は現在も「強いマイナス・イメージを持つ存在である」と説明。「製薬企業としての名を貶めるもの」と強調した。
2点目が、コスタイベの「審査過程が不公平」だという趣旨の発言。原口氏は同社が「厚生労働省の専門家委員に対して利益を供与し、便宜を図るようにしていること、その他不適切な行為」で承認を得ようとしていたと発言したという。しかし、同社は厚労省の専門委員に対して「何らの利益を供与したことはなく、また、その他の適切な行為により承認を取得した事実はない」と反論した。原口氏による「捏造」で、「真実に反する虚偽」と切り捨てている。
3点目はコスタイベが「生物兵器」だという発言。「あたかも原告製品はワクチンではなく、人体に害を与えること」「死に至らしめることを目的とした兵器」で、殺人に近い行為を犯しているとの発言を問題視した。
さらに4点目が「人体実験を行っている」という趣旨の発言。治験を行わず、安全性を保証できない製品を日本人に接種させることにより「人体実験を行っている企業であるかのような印象を与える事実を摘示するもの」という。
では、これらの発言により、実際にどれほどの損害が生じたのか。Meijiは、まず経済的損失として、コスタイベの売上げを算出している。同社は昨年11月末時点で売上高約104億9000万円、利益約57億1000万円を見込んでいた。しかし、名誉を毀損され、売上高はわずか約3億7000万円、利益は約1億5000万円だったとした。「本来であれば得られた利益である約55億6000万円が失われた」としている。
また、迷惑電話による損害も求めている。原口氏の発言の影響で、不特定多数が複数回にわたり迷惑電話をかける事例が多数発生。昨年9月末時点で合計192.4時間、人件費として120万円の損害が出たとしている。証拠資料には、電話の詳細な記録が付されており、なかには「厚労省で審査した人は全員、製薬会社から賄賂を貰っている」などと1時間近く一方的に意見を述べた記録もあった。同社は「お話を伺いました」と回答している。
また、無形損害に関しても請求。延べ173万回の表示により名誉が毀損され続けているのに加え、コスタイベを扱う病院・クリニックにも迷惑電話をかけられる事例が多発。そして、原口氏の行動は「日本におけるワクチン全体の信頼性を下げ、日本全体の公衆衛生を危険に晒す行為である。また、被告の不法行為は、従前は存在しなかった原告製品を接種した者という差別を創出し、その差別行為を助長させている。そのため、被告の不法行為は非所に悪質な行為である」と断じた。無形損害は1000万円を下らないとし、経済的損害と合わせて55億7120万円の損害があると算出している。