医療の有名裁判官が担当


 Meijiの主張が本当なら原口氏の国家議員としての信用はガタ落ちとなる。当然、原口氏は戦う構えで、弁論当日に代理人は欠席したが答弁書で反論した。


 答弁書によると、まず名誉毀損に関して「争う」ことを明確にしつつ、「そもそも本件表現行為のほとんどは、原告製品と個別限定してなされたものではなく、mRNAワクチン全般に対してなされたもの」と反論。731部隊発言について「海外からの懸念を表現したに過ぎない」と主張した。審査過程の不公平発言も「mRNAワクチン全般についての審査過程と専門委員の利益相反について問題提起したもの」で、同社やコスタイベを特定した発言ではないという。生物兵器発言も同様で、「mRNA全般を対象としたもの」と繰り返した。損害については、コスタイベの利益損失を争うとし、電話の問い合わせはMeiji側の「行為の結果」で、内容を見ても原口氏の「表現行為への言及は見出せない」と突っぱねた。


 逆に「求釈明」を申し立て、Meijiに対して回答を要求。例えば、原口氏の「731部隊をやらかした日本が再び同じようなことをしようとしている」との表現は、海外から批判の対象となっているのは「日本」であって、Meijiではないと反論した。なぜ、同社の批判になるのか明らかにするよう求めた。また、承認過程の不公正や生物兵器に関する発言についても、Meiji側の主張の「根拠」をさらに明らかにするよう迫っている。


 この訴訟は、新薬承認のあり方や専門家委員と製薬企業との利益相反、さらには新たなワクチンに対する国民への説明の仕方など、様々な課題を内包し、また、訴訟相手が国会議員ということで政治的な思惑や反ワクチン運動も絡み、問題が複雑化している。ただ、裁判自体は「表現の自由」と「名誉毀損」の問題に絞り込まれる。


 Meiji側は訴状で、最高裁判所の判例を引き合いに、表現が名誉毀損に当たるかどうかは、「一般読者(動画の場合は一般視聴者)の普通の注意と読み方を基準として解釈した意味内容に従い、社会的評価を低下させるものか否かによって判断される」と解説している。名誉毀損に関しては判例が積み上がっており、この基準が概ね司法での共通認識なのだろう。訴訟を担当する男澤聡子裁判長も3日の弁論で、「一般人がどう解釈するかになる」と語っている。


 ちなみに男澤裁判長が担当する東京地裁・民事30部は「医療集中部」のひとつで、通常案件のほかに医療事件を扱う。男澤裁判長は、東京女子医科大学病院の麻酔薬「プロポフォール」大量投与事件や、医師でジャーナリストの村中璃子氏がHPVワクチン接種後の調査内容を「捏造」と題する記事を書いて名誉毀損で訴えらえた事件でも判決を下した医療分野では有名な裁判長。冤罪事件である「大川原化工機」の元顧問が拘留中に死亡した裁判では、遺族の訴えを退けて批判を浴びるなど、何かと話題の事件を多く手がけている。


 3日の弁論では、男澤裁判長がてきぱきとした口調で審理を進めた。当日、反ワクチン団体が裁判所の前でデモを行うことも予想されたが、告知がされなかったもようで、傍聴席も報道関係者を含めても20人強で空席が目立った。裁判になった以上、余計な混乱を避けたかったのかもしれない。


 原口氏は2月25日に会見を開いたが、発言には慎重になっている。731部隊発言に関しても「私が言ったものではない」と語り、裁判に不利にならないよう言葉を選んだ。また、2月27日の衆議院予算委員会第5分科会や財務金融委員会では、新型コロナワクチンの価格設定を「官製談合」などと指摘。制度やワクチン全体の問題として捉えるような質問を繰り返し、コスタイベという個別製品やMeijiの問題でないことを強調するようになった。訴訟が原口氏の言動に一定の歯止めをかけた様子がうかがえる。