シリーズ『くすりになったコーヒー』


 利根川進博士(1987年 免疫学でノーベル賞)、またまたネイチャー誌に大論文を書きました。中身だけでなく、異例の17ページにもなる大論文です(詳しくは → こちら)。
ネイチャー誌は苦手という方には、理研プレスリリースがお勧めです(詳しくは → こちら)。


 利根川博士らがアルツハイマー(AD)マウスに使った光遺伝学を、もしコーヒーで置き換えていたならば、ADマウスの記憶喪失が光と同じように回復したに違いないのです。今日はそういう大胆な仮想実験に取り組んで、コーヒーの歴史を見てみます。先ずは予備知識の図表をご覧ください。




 では次に、利根川博士らが行った実験のポイントを3つにまとめて紹介します。下図のスパインの画像とグラフは論文からの引用で、それを見るとADマウスのスパインの数が減っていることが解ります。



 ここで最も重要なポイントは、光刺激でBDNFの産生が亢進したということです。そしてそれがスパイン形成を促して、記憶が戻ってきたのです。BDNFとスパインが重要な役目を担っています。しかし、出たり引っ込んだり忙しなく変化するスパインに、どうしてそんなパワーがあるのか、今は全く解っていません。スパインは記憶の形成にも呼び出しにも係わっているらしいのです。


●普通にコーヒーを飲む習慣がBDNF遺伝子の発現を刺激する。


 随分以前から言われていたことですが、コーヒーを飲んで知能テストを受けると必ず良い成績が取れる。『脳神経に蓄えた記憶の呼び出しが早くなる』という説明に誰もが『なるほど』と頷きました。でも分子メカニズムは?となりますと、途端に壁にぶつかります。今回の利根川博士らの論文は、そのメカニズムに迫るもので、一言でいえばこうなります。


●頭の良い悪いの違いは、記憶の呼び出し能力の差である。


 『憶えたことを思い出せない』、言われてみれば『ああ解っていたのに』ということで、普通の人がいつも感じていることです。


●そんな欠点を直すにはコーヒーを飲むのが一番なのだ!(第182話・長期増強、第199話・BDNFも参照)


第199話で「コーヒーとBDNF」を書いてから丸2年。この間にコーヒー科学は随分と進化して、利根川博士らの論文をコーヒーで再現出来るのではないかと思えるほどになりました。もしかすると、コーヒー科学はノーベル賞級の研究を超えているのかも知れません。以下は、利根川博士らの光技術に代わり得るコーヒーの効き目の論文です。


☆コーヒー習慣とBDNF:コーヒーを飲む習慣がBDNF遺伝子を発現する(詳しくは → こちら)。


☆コーヒー果実ジュースとBDNF:全果実ジュース1回投与でBDNF上昇(詳しくは → こちら)。


☆カフェインとBDNF:睡眠不足の急速眼球運動をBDNFが改善する(詳しくは → こちら)。


☆カフェインとBDNF:睡眠不足の記憶障害をBDNFが改善する(詳しくは → こちら)。


☆カフェインとBDNF:マウスに1.5?/?のカフェイン連日投与でAD予防(詳しくは → こちら)。


☆クロロゲン酸とBDNF:含有植物としてのBDNF効果(詳しくは → こちら)。


☆カフェ酸とBDNF:ワインのカフェ酸としての効果(詳しくは → こちら)。


☆フェルラ酸とBDNF:BDNFを介する抗うつ効果(詳しくは → こちら)。


 以上、コーヒー成分はカフェインだけでなくクロロゲン酸関連のポリフェノールもBDNF産生に寄与しているようです。なかでも毎日コーヒーを飲んでいる人たちの群でBDNF遺伝子が多く発現するという論文は超魅力的です。ではその効き目の強さはどの程度のものなのでしょうか?


●コーヒーとアルツハイマー病(AD)の疫学調査の精度は甚だしく低い。


 以前にも書いたように(第171話を参照)、疫学調査では、コーヒーを飲む群の罹患リスクは最大62%まで軽減されます。しかし、このデータの信憑性は謎だらけで、本当のことは分かりません。どんなに慎重に調査しても、『本人の記憶の限界』を超えられるアンケート調査などあり得ないのです。ですからADとコーヒーの関係解明には臨床試験しかないのです。


 最後にもう一言。利根川論文に刺激されて、MCI(軽度認知障害)対象に臨床試験が始まることを期待しますが、でもその前に、BDNFをより多く増やすコーヒーについてもう少し吟味して、それから願わくば・・・


●利根川博士がコーヒーを推奨するようになれば、コーヒー文化の華が開く!


 是非宜しくお願いします!


(第271話 完)


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