これまでに、コーヒーを飲んでいると「灰白質は小さくなって、白質は大きくなる(第467話 → こちら)」とか、「グリンパシステムに作用して脳の水の流れでゴミ掃除が進む(第473話 → こちら)」などを書いてきました。こういった現象は誰の脳でも起こることなので、頭の良し悪しとは関係ありません。その証拠に、いくら頭が良いと言われた人でも、年には勝てず呆けますし、どんなに学業成績が悪かった人でも老いて明晰な人もいます。


●ヒトの脳の左と右半球は別物で、ほとんどのヒトは片方だけで生きている。

 普通の人の90%は右利きですが、中には左利きの人もいます。字を書くとき、食事をするときに簡単に見分けられます。スポーツ選手にも左利きが居て、プロ野球チームにはなくてはならない存在です。そうなる理由は遺伝的ですが、どうして右利きが多いのかは謎のままだそうです。

 テニス、ゴルフ、野球など、本来は右利きの選手でも、本人の意志と練習次第で「反対側」を克服する可能性があります。子供のうちは大人より早く「克服」できるようです。遅くとも小学校を卒業するまでに、左と右の使い分けができるようになると、将来その道で「天才」と呼ばれる可能性が少し高まるのだそうです。


●人の性格や思考スタイルにも右と左の差がある。

 右脳の人は、直感的で創造的で自由な発想の持ち主です。例えば、「今朝の空は灰色で威嚇しているようだから・・・きっと雨が降るのだろう?」、 逆に左脳の人は、より分析的に考えて、「雨の可能性は30%との予測ですが、積乱雲が見えるので、雨だけでなく雷も鳴るだろう」というように七面倒臭く考えるのです。そう解説しているのは、ハーバード大学ヘルスサイエンス出版部で、図1のような左脳と右脳の概念図を描いて説明しています。



 よく知られているように、左利きの手の運動は右脳に支配され、利き手が右ならば左脳に支配されています。脳梗塞を左脳に起こすと、右半身に麻痺が生じることもよく知られた事実です。このように、運動神経の場合は、脳の左側と右側は明確に別々の働きを持っています。しかし、精神活動や思考回路の場合は、左右の脳の働きに運動神経のような差別はなく、回路の構成は左右に跨っていることが多いのです。そして、左右の脳を両方とも使って判断し、考え、そして記憶する人がより天才に近いと考えられているようです。


●生まれつきの天才は生まれつき脳全体を使いこなすが、努力型の天才は両脳を使うように訓練されている。

 そしてその訓練とは、一説によれば「空想すること」で、医学的には「マインドフルネス」の繰り返し訓練によって鍛えられるそうです。簡単に言えば、「天才とは空想する人のこと」とも言えそうです。では、歴史的大天才が空想の結果生み出した英知について、コーヒー絡みで見てみましょう。


●アインシュタインの関係式(Einstein’s Relation)とコーヒーの関係(詳しくは → こちら)。

 コーヒー抽出液は懸濁液ですから、水の中に無数の微粒子が浮いています。天才アインシュタインは「微粒子のブラウン運動は拡散係数D=μkTに従う」ことを証明しました。これは相対性理論で有名な“E=mc2”と並ぶ二大方程式の1つだそうです。今回紹介する論文は台湾の国立精華大学材料科学部門のサンボー・リ教授が率いる研究チームの成果で、題して「アインシュタイン関係式に従うコーヒー微粒子のブラウン運動」。その内容は、コーヒー懸濁液の粘度および拡散係数には温度依存性が存在し、高温での抽出液の流れがアインシュタイン関係式に従っている・・・相当に難しいので、絵を使って説明します。



 図2は、日本の理化学研究所で、「液体」と「素粒子」の運動という全く異なる物質の動きを関係づけようとしている本郷優博士が描いたものです。カップに注いだコーヒーに砂糖を加えたその次は、誰もが申し合わせたようにスプーンでかき回します。本郷博士によれば、「流体が流れている」という効果(中央)を「空間が曲がることで生じるアインシュタインの効果」(右端)として理解することができるのだそうです。上記したサンボー・リ教授の研究と合わせると、アインシュタインの世界を、私たちの周りの普通の世界に当てはめて見ることができるというわけです(詳しくは → こちら)。


●天才ホーキング博士はコーヒーを飲みながらブラックホール放射を予言した。

 アインシュタインに続く大天才で天文物理学者のスティーヴン・ホーキング博士は、難病ALSのため72歳で他界しました。今はそのALSの動物モデルがニコチン酸(深煎りコーヒーのビタミン)で改善することが解っていますから(詳しくは → こちら)、あと10年長生きして、未解決の宇宙の謎解きを続けて欲しかったと思います。それはさておき、あまり知られていない逸話が理研のHPに書いてありました。

 ホーキング博士は、アインシュタインが予言した空間の歪み、つまりブラックホールについて更なる考察を重ねました。コーヒー好きのホーキング博士は、車椅子のトレイにカップを置いて瞑想に耽ることが好きでした。ある日のこと、カップに注いだばかりのコーヒーから、もやもやと立ち登る湯気を見た、その瞬間に「ブラックホールの中心から放たれるホーキング放射(=ブラックホール放射)」が閃いたのだそうです(詳しくは → こちら)。



 さて、ここまでは大天才と物理学のお話でしたが、ここからは大天才の思考力は生命科学にも通じているというお話です。


●ミトコンドリアはエネルギーを買うための通貨(カレンシー)と言われている。

 人類はミトコンドリアがないと生きられません。もし生きていられるとしても、動かず、考えず、じっとうずくまったまま、死んだも同然の生き物になってしまいます。そこで「エネルギーを買うための通貨」として、ミトコンドリアというこれまた死んだも同然の生き物と共生する道を選んだのです。共生によって、両方とも現在の姿になったのです。

 スタンフォード大学神経外科でポスドク生活を送っているビニタ・バラト博士は、ペンマンガが得意なので、HPにプラットフォームを立ち上げて、医者でも専門家でもない普通の人たちに、医学の知識を知ってもらおうと活躍中です(詳しくは → こちら)。その彼女に閃いたのは、アインシュタインの方程式、E=mc2を、生命科学風に置き換えることでした。その為に描いた絵が図4の元になって、それに筆者が少しだけ手を加えて、コーヒーカップを隠し持って貰ったのです。



 アインシュタインもホーキングも大好きだったコーヒーを、ミトコン・マジシャンが隠し持って、赤いハンカチを振り回すと、エネルギー分子ATPがザクザク飛び出して元気になるというお話です。EはエネルギーのE、MはミトコンドリアのM、そしてCはミトコンドリアが寄生した細胞のCというわけで、流石のアインシュタインもこれには気づいていなかったはずです。


 さて如何でしたか?筆者が特に強調したかったのは、コーヒーを飲みながら瞑想に耽ることで、ごく普通の人でも左脳と右脳の両方を活性化できるということです。興味がある方は、こちらを参照してください(第327話 → こちら)。


(第475話 完)