■多段階の検討と判断を経て製品を開発

―開発の経緯は。

 直接のきっかけは、西澤祐吏先生(国立がん研究センター東病院)からのご要望です。2015年のことです。それ以前に、次世代産業として医療機器の創出を促進する国の施策が強化された2014(平成26)年頃から、弊社も医工連携に向けて全国的なマッチングに取り組み、他県のコーディネーター、産業支援機関、ドクターと繋がる機会が増えました。そうした中で面識があった弁理士の先生が香川大学の産学連携・知的財産センターから東病院に異動。西澤先生から「こういうコンセプトの医療機器を作りたい」というお話があり、その弁理士から弊社を紹介されたというご縁です。

 西澤先生自ら弊社に来て、直腸がん手術に伴う括約筋の損傷・切除やリザーバー機能(便を貯める機能)の低下による排便機能障害で患者さんが困っていること、BF療法が有効であるにもかかわらず効果が見えにくいために普及していない現状などについて熱弁を振るい、協力を求められました。


―実績がある脳神経外科とは異なる分野に挑戦した手立ては。

 医工連携は弊社の従来の強みとは異なる分野でも進めていこうと考えてはいたものの、全く無縁の領域で、正直なところ戸惑いもありました。そこで、西澤先生に手取り足取りいろいろな情報をいただいたのに加え、経済産業省のグラントを得て実現可能性の調査を行いました。日本大腸肛門病学会の学術集会の折りに会場の一室を借り、事前にお声掛けした二十数名の専門家に対し、個別のヒアリングを行ったのです。外科系やリハビリ担当の医師、皮膚・排泄ケア認定を受けたいわゆるWOC(Wound Ostomy Continence)ナースなど、BF療法への造詣が深いかた、やりたいけれどやれない事情をよくご存じのかたに貴重なご意見を伺う機会を得ました。


―「臨床現場からの要望を受けたからつくる」というほど単純ではない、と。

 そうです。さらにミクロの医療経済面で言うと、医療機関は購入した機器と診療報酬のバランスを考えざるを得ない。従来、筋電計を用いたBF装置は海外製品しかなく、購入価格と消耗品を含めると300万円近い。ところが排便機能障害を含む排泄機能障害そのものに保険点数はついておらず、リハビリ管理料や筋電計測定検査の形で保険請求をしたりしなかったりという実情があります。かつ、現在のn数では耐用年数内で黒字化するのは非常に難しい。BFによる介入がかなり有効というエビデンスがあっても、やればやるほど赤字では普及しません。価格に関しては、公立病院および私立の病院・診療所の事情、さらには今後の中心国や発展途上国への展開を勘案し、50万円程度の納入価実現を目指しています。


日本大腸肛門病学会が医療技術評価提案書(p.1287-88)で、肛門括約不全、便失禁、排便障害に対する直腸肛門回復訓練(BF療法)への保険適用を要望している。年間対象患者数は22,000人、年間実施回数10回を想定しているとか。

―さらに、女性の腹圧性尿失禁などMyoWorks プラスの使用対象を拡大する可能性は。

 排尿障害に応用するには目的に合わせてプローブの形状を変える必要はありますが、開発当初から、加齢に伴う失禁や産後の失禁などについても同様の機器を用いたBF療法を視野に入れています。そのために、製品名で“排便”を一切謳っていません。とはいえ、まず排便機能障害である程度の成果を出してからの展開を考えています。