■想定外のハードルにも直面

―VIMMSは、将来的な遠隔医療への展望があって順次開発したのか(前出の図・右)。

 コロナ禍以前から医療ビッグデータ構想のもとに開発しました。ワイヤレスで手軽にスマートデバイスに情報を表示・集積する。そこからクラウドに飛ばして集積したデータを二次利用できれば、と。

 特にBF療法は月1~2回では効果が薄いので、MyoWorks プラスを用いて在宅でも行い、クラウドに蓄積して主治医が確認すれば、次回の受診時にアドバイスができるというコンセプトでした。ところが、筋電計は1秒間にかなりの計測をしており、無線でリアルタイムに飛ばすとパケットロスが生じると判明。データ欠損があると研究には使えないという医師からのアドバイスがあり、現状はタブレットに保存されたデータを有線接続して取り出します。将来的には蓄積したデータをクラウドに飛ばす形を考えています。また、家庭版やスマホにアプリを入れて手軽に使えるものも考えています。


―クラウド保存を手掛ける競合企業は非常に多いのでは。

 プラットフォーマーはいくらでもいますが、機器まで取り揃えて開発している企業はほとんどありません。また、既存の技術の組み合わせだと模倣されたり、より安価につくられたりする懸念があったので、「集合体で1対n通信ができる」形で特許を取得し、知的財産でカバーする戦略をとっています。


―医療機器の添付文書を見ると血圧計とパルスオキシメータは他社協業。製造はなぜ海外に。

 弊社はファブレス企業ですが、VIMMSについては最初、国内他社と協業して、ある程度まで進めました。ところが血圧計は圧力計でもあり、経産省の計量法に則らなくてはいけない。産総研に型式登録をし、出荷前に全数検査をして、東京都から登録シールを買って全部に貼る必要があることがわかりました。そこで、本体や計測のアルゴリズムが一致し、登録作業にも対応可能と言ってくれた海外企業に国内コンサルタント会社を通じ依頼。ただし、我々の機器にしか通信できないようにシステムを変更しました。

 パルスオキシメータは、既存の開発キットを調達して作れます。アセンブリすると弊社の製造販売物になりますが、我々がこれまで多くの開発経験を持つクラスⅡの医療機器で、「要求事項を証明すればよい」と安心していました。ところが、その要求事項で「ヒトでの試験データを取ることが必須」しかも「血中酸素飽和度70%になるまで、決められた領域毎に5サンプルの試験データを統計学的に有意で十分な被験者数、医師立ち合いのものでデータ収集せよ」と記されていました。酸素飽和濃度が90%を切ると「危険な低酸素血症」なので、70%の人はまずいません。念のため、高山病の治療や人工的な高山トレーニングを行っている大学病院に問い合わせてみたところ、「そんな過酷な試験は同意できないし、データはおそらく集まらないだろう」と言われました。この試験データについても、海外企業はすでにデータを所有していることがわかったので供給をお願いした次第です。