■医療機器開発、忘れてはいけないポイント
―貴社がこれまでの節目での行った判断や企業戦略は。
1972年の創業時、弊社は医療機器の卸売業としてスタートしました。その後、1985年頃に脳神経外科の直達手術用の鋼製小物を作り始めました。ある営業担当が得意先のドクターから「自分が使えるものがないから作ってほしい」と言われたことがきっかけです。それから40年弱を経ても参入企業が少なく、30%程度のシェアを維持できるので現在も一つの柱として継続しています。ただ、ロボティクス手術が主流になると専用のアタッチメントでないと受け入れられない状況になる、近いうちにそういう時代が来るだろうという仮説のもとに今回のような市場開拓を模索し始めました。
昔から一貫しているのは、ニッチで市場が小さい領域をまず手掛け、そこで7~8割の占有率を確保すること。市場拡大の努力をしながら、その占有率を堅持できれば、獲得利益も増える可能性が高いからです。一方、既に飽和している市場や、大手企業が参入してくる年間10億円以上の市場には絶対いかない。市場が大きくても自社でそのうちどれくらい取れるかは別の話。大手が、年間3~5億円の市場に開発費や人員をかけることはほぼないので、そこは中小企業が活躍できる場と理解しています。
―最後に、医工連携において何が重要か。医療機器を開発する企業が意識して実行すべきポイントは。
まずは「現場の先生がこう言っているから間違いない」と安易な判断をするのではなく、シーズの調査を深掘りし自分たちの目で信じるものを探すことが必須です。
次に留意すべきは知的財産の調査を広く深く行うこと。「物理的に作れる物」と「作ってよい物」は倫理的に異なることを念頭に置くべきです。
出口戦略も忘れてはいけません。国内で代理店網を使って販売することは可能ですが、海外に出たり、市場が大きくなったりすると手に負えないことも出てくるので、将来的な協業や権利の売却を視野に入れながら拡販していきます。
また、薬事戦略も本当に重要です。医療従事者(医師側)は、「作れる物」「作ってよい物」の倫理や、医療機器としての登録方法をよく知らない。企業側も規格・規制を考慮せずに「作れます」と言ってしまうかもしれません。そうした事態は薬事や特許の視点を導入していくことで避けられるはずです。
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前多氏が、日本整形外科学会学術総会のシンポジウムで行った講演※によれば、医療従事者のニーズ提供から製品上市まで行い、かつ5年以上の販売を継続できる製品は1%にも及ばないという。取材では製品開発の実際や失敗談などについて率直にお話しいただき、極めて賢明かつ戦略的に事業を進めていても、思わぬ壁にぶつかるケースが多々あることを実感できた。
※前多宏信:医療機器開発において, 医師が医療機器メーカーとうまく付き合うためのポイントーライセンス契約 (経済的還元) の獲得に向けてー. 日本整形外科学会雑誌 2021; 95: 1118-1122.
[2023年4月26日取材]
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本島玲子(もとじまれいこ)
「自分の常識は他人の非常識(かもしれない)」を肝に銘じ、ムズカシイ専門分野の内容を整理して伝えることを旨とする。
医学・医療ライター、編集者。薬剤師、管理栄養士、臨床検査技師。