「うそ八百」が実は「強い口調での指導」
文書問題の初動を少し整理しておく。
斉藤氏がメディアや警察、県議らに送られた告発文書を入手したのは昨年3月20日だ。翌日、当時副知事だった片山安孝氏ら幹部を集め、その場で通報者が誰であるかを「徹底的に」調査するよう命じている。すぐにメールの履歴などから、県民局長が浮上した。
25日に、片山氏が県民局長を訪ねてパソコンを回収し、その場で局長の任を解く人事を伝達している。斎藤氏は27日の会見で「業務時間中にうそ八百含めて文書を作って流す行為は公務員としては失格」と切り捨てた。
県民局長は4月4日、今度は県の公益通報窓口に内部通報することになる。3月にメディアなど外部機関に通報した「3号通報」に対し、内部通報は「1号通報」と称されている。幹部会議では、この1号通報の調査結果が出るまで処分を待つという選択肢も示された。だが、斎藤氏は強硬姿勢を崩さず、県民局長への処分を急いだ。5月7日、停職3ヵ月の懲戒処分を発表する。県民局長は百条委員会への出席直前だった7月に亡くなっている。プライバシーが暴露されてしまうことを憂えて自死した可能性が強いとされる。
斉藤氏が百条委員会での聴取や会見などで繰り返してきたのが「真実相当性」だ。3月20日に入手した文書は「うそ八百」「噂話を集めた怪文書」で「確信的な部分が真実ではない」うえ、具体的な証拠が示されていないといのが理由だ。
だが、告発文書は本当に怪文書の類だったのだろうか。少し複雑だが、告発文書の性格を決定づける出来事があった。
昨年12月11日、内部に通報した1号通報について、県の公益通報窓口となる県財務部県政改革課が調査結果を公表したのだ。怪文書であれば、わざわざ調査結果を発表する必要はない。
そこで「パワハラと認められる事案があったとの確証までは得られなかった」としつつも、「職員に対して強い⼝調で指導することがあったと認識している」と強い叱責が繰り返されていたことを認めている。
業者からレゴブロックやスポーツシューズ、播州織の浴衣、ロードバイクのヘルメット、コーヒーメーカーなどを受領した物品供与についても、「貸与を装った贈与と誤解を受けたケースが確認された」と結論付けている。つまり、告発内容が「うそ八百」ではなかったことを示唆している。
物品供与は、額が大きくなければ収賄罪には当たることは稀だ。だが、公職にある者が物を受け取ってしまえば、必ず見返りが期待される。あるいは、受け取ったことで行政監視機能が緩んでしまい手心を加える、あるいはその疑いを招くことにもつながる。物品供与は抑制的であるべきで、我々メディアにも共通する倫理観だ。
注目されるのは、財務課が是正措置として、ハラスメント研修や贈答品受領のガイドラインを見直すことを要請している点だ。ここでも告発内容の公益性が図らずも証明されたことになる。
実は3月の3号通報も、4月の1号通報も、ほぼ同じ内容の告発だ。その片方は「真実相当性がない」と言い、片方は公益通報として認められるというというのは、いかにも矛盾している。
それでも斎藤氏は頑なに抗弁を続ける。1号通報は県の通報窓口に提出されたもので、建前上はその内容は告発された知事当人には伏せられることが同法で定められている。つまり、3号通報の内容には真実相当性がないが、1号通報については知る立場にないから、判断できないというのだ。
客観的にみても真実相当性が明らかな告発だったにもかかわらず、なぜ斎藤氏らは「怪文書」として処理しようとしたのか。斎藤氏のプライドが許さなかったのか。あるいは旧県政からの改革を続けてきた斎藤氏が、その推進力を保つために握り潰そうとしたのか。あるいは、県民局長の聴取を担った片山氏が、「噂になっている」との県民局長の弁明を斎藤氏に伝え、斎藤氏がその言葉を鵜吞みにしたためか。