国の検討会でも兵庫県のケースに否定的
公益通報者保護法は06年に施行され、22年に改正されている。改正法では、300人を超える事業者や団体(行政機関も含む)は、通報窓口に専従者を置くなどの体制整備が義務付けられた。通報者の探索や不利益な取り扱いは実質的に禁止され、同法の指針では1号通報でも3号通報でも同様であることが明記されている。
検討会は昨年末に、公益通報したことを理由に解雇や懲戒処分を下した場合に、刑事罰を科すことを盛り込む報告書をまとめた。不利益な取り扱いの禁止に実効性を持たせるためだ。
昨年5月に議論を始めた検討会では、兵庫県のケースが名指しされることはほとんどない。だが、複数の委員が暗に兵庫県で同法が蔑ろにされかねないことに懸念を表明している。
「告発された人が通報者を特定し、何とか逃れようとするケースが実際に生じています。公益通報しようとする人がますます委縮するのではと危惧しています」
「公益通報制度の制度趣旨事態が没却されるような事態が残り続けるのでは」
そして報告書案がまとまる直前の12月4日の第8回会合で、弁護士の山口利昭委員がモニター越しに発した言葉が象徴的だ。
「現在(兵庫県の)百条委員会で公益通報に当たるかどうかが議論になっている。何が公益通報に当たるのかを明確にしていかないと(通報者の)委縮効果が高い。法改正を早急にやってもらいたいことを(報告書の末尾の)おわりに、のなかで強調していただきたい」
これまでの百条委員会での審議を振り返ると、告発文書の「真実相当性」は認められ、「不正の目的」もなかったとする意見が支配的だ。事実を追及さえしていけば、自ずと結論に導かれるはずだ。だが、昨年11月の出直し選挙に斎藤氏が圧勝したことで、百条委員会の行方に暗雲が垂れ込めている。
斎藤氏らを追及する急先鋒だった竹内英明前県議や委員長を担った奥谷謙一県議への誹謗中傷がネットにあふれ、家族への波及を危惧したという竹内前県議は選挙直後に辞職を表明した。18日に自殺したが、誹謗中傷との関係が取り沙汰されている。
知事の不正を暴く立場の百条委員会が、いま勢いを失い窮地に立たされている。斎藤氏が民意を得たことと、パワハラなどの告発内容の調査はまったく別の問題のはずだが、委員会には斎藤氏を擁護する県議もおり、意見の統一には紆余曲折がありそうだ。
消費者庁の検討会での議事録やビデオを見返してみると、他の法律の刑罰との整合性に腐心する様子が見て取れる。それでも、いかに公益通報者保護法に実効性を持たせ、告発者を護るのかの真摯な議論が続いていた。
一方、兵庫県の斎藤氏の会見や百条委員会での聴取をみていると、この法治国家のなかで、兵庫県だけが治外法権にあるかのような錯覚に陥ってしまう。モノトーンのフィルムを見させられている感覚だ。
同調圧力の強い日本で、組織の不正を告発する行為には勇気がいる。告発者を護る公益通報者保護法は、いわば言論の自由を護る砦でもある。
百条委員会は、それだけの重責を担っているはずだ。
―――――――――――――――――――――――――
辰濃哲郎(たつのてつろう) 元朝日新聞記者。04年からノンフィクション作家。主な著書に『揺らぐ反骨 小﨑治夫』『歪んだ権威――密着ルポ日本医師会積怨と権力闘争の舞台裏』『海の見える病院――語れなかった雄勝の真実』(ともに医薬経済社)、『ドキュメント マイナーの誇り――上田・慶応の高校野球革命』(日刊スポーツ出版社)など。