反感などの動機は「不正とはいえない」
その片山氏が9月6日、百条委員会の聴取で何度も繰り返した言葉がある。それが「不正の目的」だ。
片山氏が回収したパソコンから、県民局長の「クーデターを起こす」とか、「革命」などの文言が見つかっている、これらは斎藤県政を転覆させる「不正な目的」で、同法の保護対象とはならないと主張したいわけだ。
共用パソコンにクーデター計画を残す時点で、その本気度が推し量れるものだが、確かに同法2条では、通報の濫用を防ぐために「不正の目的」による通報を禁じている。「不正の利益を得る目的」「他人に損害を加える目的」と定められているが、いかにも抽象的だ。法を所管する消費者庁参事官(公益通報・協同担当)室に尋ねても、「不正の目的とは、公序良俗に反しない目的」としか説明してくれない。
だが、昨年9月に開かれた公益通報者保護制度検討会の第4回会合に消費者庁が提出した資料に、ヒントがある。
「『不正の目的でないこと』の要件に関する整理」という資料で、「事業者に対する反感などの公益を図る目的以外の目的が併存しているというだけでは『不正の目的』であるとはいえない」とある。
片山氏が指摘する「クーデター」もこれに類する反感や不満の表れだ。武力計画でもない限り不正にはつながらないようだ。同じ資料には、こうもある。
「公益通報する者は様々な事情につき悩んだ末に通報することが多く、純粋に公益目的だけのために通報がされることを期待するのは非現実的」
つまり「不正の目的」とは、「誰の目から見ても法目的に適合しないような」(第4回検討会での発言)特殊なケースを想定しているのだ。
何十人もの告発者と接してきた私の経験からすれば、組織内の不正を告発する動機はさまざまだ。権力闘争に敗れた者が復讐ややっかみで告発してくるケースもあれば、因縁や怨恨から相手に打撃を加えたいという不純な動機もあった。純粋な正義感からの告発は、むしろ少数と言っていい。自分の身元が暴露されかねないという危険な橋を渡るには、不純な動機があってもおかしくはない。
動機が不純だからといって、取材を打ち切ることはない。動機よりも告発内容が事実であるかどうかの見極めのほうが大切だ。報ずる価値さえあれば、裏付けに全力を尽くす。事実を突き止めるために、さらなる協力者を探したり、相手に否定されても記事にできるだけの材料を集める必要がある。告発者から取材を重ねても、お蔵入りになった事件は少なくない。こういった告発内容はほとんど事実とみていいが、実際に裏付けられるのは、せいぜい1~2割ほどだった。