■内閣府と厚労省の取り組みを紹介


“官”に関しては、渡邉顕一郎氏(内閣府健康・医療戦略推進事務局 参事官)が『ドラッグ・ロス解消に向けた薬事審査行政の取り組み』荒川裕司氏(消費者庁 食品衛生基準審査課 専門官、前 厚生労働省 医薬・生活局 医薬品審査管理課 審査調整官)が『創薬力の強化・安定供給確保のための薬事規制のあり方について』と題して講演した。両者が紹介した内閣府と厚労省の主な取り組みを時系列にまとめて以下に示す。


 23/5/30  自民党『創薬力の強化育成に関するプロジェクトチーム(PT 提言

◎田村憲久氏、武見敬三氏、古川俊治氏ら衆参国会議員9名が参画するPT。22年9月に「医薬品産業エコシステムと医薬安全保障の確立」、11月に「薬価制度の抜本改革に関する提言」も公開。

◎22年8月以降、厚労省医薬品の迅速・安定供給実現に向けた総合対策に関する有識者検討会が行われていることも受け、5つの課題と、政府に取り組みを求める11の方向性を挙げた。

◎このうちドラッグ・ロスに関連する課題は、「日本起源の医薬品の減少、世界市場に占めるシェアの減少、輸入超過」「希少疾病、小児分野等を中心としたドラッグ・ロスの発生」「国民皆保険の持続性とイノベーションの推進の両立」、要望事項は「創薬エコシステムの育成支援」「治験環境の整備」「医療情報利活用促進」「日本市場の魅力向上に資する薬価制度の構築」「小児・希少疾病等に係る保険外の医薬品利用に対する支援等」とされた。


 23/6/16  内閣府『経済財政運営と改革の基本方針2023』(いわゆる骨太方針)

◎「第4章 中長期の経済財政運営」の「2.持続可能な社会保障制度の構築」のうち「社会保障分野における経済・財政一体改革の強化・推進」の中で、「創薬力強化」に言及し、ドラッグ・ラグ、ドラッグ・ロスへの対応策として「更なる薬価上の措置」「情報基盤の整備や解析結果の利活用に係る体制整備」「スタートアップへの伴走支援」「アジア拠点の強化」「国際共同治験に参加するための日本人データの要否の整理」「小児用・希少疾病用等の未承認薬の解消に向けた薬事上の措置と承認審査体制の強化」等の推進を挙げた。


 24/4/24 厚労省創薬力の強化・安定供給の確保等のための薬事規制のあり方に関する検討会報告書

◎ドラッグ・ロス拡大の背景に「バイオ医薬品の主流化」「創薬シーズをベンチャーに依存するビジネスモデルへの転換」「疾患ターゲットの細分化」等の創薬環境の変化があると捉え、医療上必要な医薬品の導入促進のため、薬事規制の観点から必要な見直し等を検討。23年7月~24年3月に、19名の構成員が9回にわたり検討。


【希少疾病用医薬品の指定要件の見直し】❶「輪切り」※要件の明確化、❷医療上の必要性の要件の明確化、❸指定の早期化と取り消し要件の明確化が提案された。


※いわゆる「輪切り申請」は、特定の疾患の患者数に関して、医学薬学上の明確な理由なしに、「重篤な」等の接頭語あるいはただし書きの追加によって、患者数を5万人未満として計算すること。


【小児用医薬品の開発促進】小児用医薬品開発を成人用と同時に進める仕組みや、その実効性を高めるための対応が必要。ただし、小児用の開発を一律に義務付けるのではなく、開発優先度を明確にしつつも柔軟性をもたせ、企業判断を確認する、PMDAに小児用医薬品に特化した相談枠を設けるなどの提案がなされた。


【日本人第Ⅰ相試験の必要性】一般に、国際共同治験開始前の第Ⅰ相試験については、原則として日本人での第Ⅰ相を追加する必要はないものの、個別品目ごとに、「医薬品のリスクの大きさ」「民族的要因の影響の受けやすさ」「国際共同治験に参加しない場合の不利益」等を踏まえたリスクベースの検討に基づき判断する必要がある。


 24/5/22 内閣府創薬力の向上により国民に最新の医薬品を迅速に届けるための構想会議』中間とりまとめ

◎ドラッグ・ロスの発生や医薬品の安定供給等の課題に対応し、国民に最新の医薬品を迅速に届けられるよう、医薬品へのアクセス確保創薬力強化のための検討を、23年12月~24年5月に、12名の構成員が5回にわたり実施。

◎「ドラッグ・ラグ/ドラッグ・ロス問題」「我が国の医薬品産業の国際競争力の低下」「産学官を含めた総合的・全体的な戦略・実行体制の欠如」の諸課題に対し、「治療法を求める全ての患者の期待に応えて最新の医薬品を速やかに届ける」「わが国が世界有数の創薬の地となる」「投資とイノベーションの循環が持続する社会システムを構築する」を戦略目標とした。

◎国内だけで閉じず、「海外の実用化ノウハウを有する人材や資金の積極的な呼び込み・活用」などを盛り込んだことが特徴。


 24/7/30 内閣府『創薬エコシステムサミット

創薬エコシステムの強化に向けた政府のコミットメントを内外に宣言し、官民が協力し継続的に連携してエコシステムの発展に取り組むことを確認することを目的に開催。


第1部:創薬エコシステムに資する取組及び官民協議会のあり方を含む今後の施策について議論することを目的とし、政府関係者、国内外の製薬企業、VC、スタートアップ、大学関係者等の43名が出席。


第2部:参加者の連携・交流を促進するためのネットワーキング及びセミナーの開催を目的とし、第1部参加者を含む約400名が参加。

◎上記構想会議の中間とりまとめを踏まえ、創薬エコシステム育成施策の方針や進捗状況について、企業のニーズも踏まえて議論を行い検討するため、25年度に官民協議会の設置を予定


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 なお、上記『創薬エコサミット』で岸田前総理が表明した「医薬品産業を成長産業・基幹産業と位置付け、政府として、民間の更なる投資を呼び込む体制・基盤の整備に必要な予算を確保」する旨は、その後も引き継がれ、24年12月9日開催の健康・医療戦略推進本部(第48回)「創薬力強化等に係る経済対策における対応(イメージ)」が示された〈下図〉。この時点での「創薬力強化・後発医薬品等の安定供給確保に向けた総合経済対策における対応」の予算規模は概ね1,000億円程度(計数精査中)とされた。